創造的な問題解決に取り組む
―東京西部、東村山市のオフィスにお邪魔していますが、こちらが地元なんですか?
そうです。職住近接で、結構いいですよ。自宅から自転車で、河原を通ってここまで来るんです。会社員時代、何十年もすごい通勤ラッシュの中、通っていたので、こんな通勤があるとは思っていなかったですよね。
―独立されて、まずここに?
最初の 1~2 年は自宅でやっていたのですが、さすがにそれはあかんねということで、仲間と 2 年ほど、新宿でシェアオフィスをしました。その後ここに来て、3 年くらいですね。
大きな会社と仕事をするときには、名刺に都心のオフィスの住所があった方がいいのでしょうけれど、私がやっている診断士の仕事には、地域への貢献という面が結構あるんですね。いまは、東村山商工会など、地元の中小企業の経営支援を多くやっています。
―松岡さんは、フォトリーディングやマインドマップのセミナー講師と、経営支援をするコンサルタントをされていますが、その前はデザインのお仕事をされていたんですよね。
そうなんです。日立製作所のデザイン研究所というところにいました。携帯電話やパソコンなどをデザインするプロダクトデザインから始まって、Web サイトなどの情報デザイン、コミュニケーションデザイン、ソリューションデザインと、本当にさまざまなデザインに携わりました。
―カタカナの分野名が多いですね(笑)。具体的にはどんなお仕事なんですか?
日立は当時、社員 8 万人、グループ企業も併せると30万人の会社でしたが、デザイン部署 150 人で、会社がつくるモノやサービスの主要なデザインをすべて担当していました。冷蔵庫、洗濯機はもちろん、鉄道の車両や、エレベーター、エスカレーターのデザインから、発電所の景観デザイン、鉄道会社の予約システムの画面デザインまで。
さらには、社長秘書室から、「社長や役員たちに見せる情報を、もっと分かりやすく見せたい」という相談が来たり、会社のイントラネットを販売する部署からは、どうすれば効率的に仕事が流れるかを考えてほしいという依頼が来たり。結局、お堅い会社の中で、デザイン部署だけは何か頭が柔らかくて、アイディアを出せるということを幹部層は知っていたんですね。だから、困っていそうな部長とかに、「君たち困っているな。デザイン研究所行ってこい」と言うわけです。
―なるほど。いわゆる消費者に売る製品だけではなくて、社内コミュニケーションを助けるためのツールのデザインなどもあるわけですね。
そうなんです。消費者向けの B to C、ビジネス向けの B to B、そして、従業員(Employer)向けの B to E もあったんです。本当にいい会社でしたし、そうやってさまざまな仕事をする中で、デザインというものはすごくいろいろなアイディアや解決策を出せると思いました。でも、やはりデザイナーがビジネスを分かっていないことが多いので、アイディアの出しどころを間違うんですね。例えば、ある事業部の存続が危ないというときに、新規商品開発のアイディアとかを出してしまう。潰れそうな会社だとしたら、いますぐ売り上げを上げるためのアイディアを出すべきですよね。そういう文脈の間違いを僕らはしてきたので、もうちょっとビジネスを勉強しなければと思い、幅広くビジネスが学べる中小企業診断士の勉強を始めたんです。
―そういう流れなんですね。そのころから、行く行くは独立しようと…。
いや、そんなことは思っていませんでした。いまやっている仕事に役立てたいということと、やはり自己啓発ですよね。たぶん、そのときやっていた以上にやりたかったと思うんですよ。デザインというものを、あまり狭い領域の中でとらえたくなくて。僕の中のデザインの定義は大きくて、「創造的な問題解決=デザイン」なんです。だから、僕はいまもデザインをやっていると思っているし、10 年後も 20 年後もデザイナーでいたいと思うんですよね。
アウトプットにこそフォトリーディングを活かそう
―「まつかつさんと言えばマインドマップ」という声をよくお聞きしますが、マインドマップにはいつごろ出会われたんですか?
松岡さんが初めて描いたマインドマップ。すべてはここから始まった。
2003 年 9 月です。診断士の勉強をしていたとき、購読していたメルマガに「診断士の勉強にはマインドマップを使うとまとめやすい」と書いてあったんですね。僕はプロセスオタクなので、そのとき自分が描いた初めてのマインドマップの写真もとってありますよ。いま皆さんが描くマインドマップよりはるかにひどいマインドマップですけど。
―マインドマップは、実際に診断士の勉強に役立ったのでしょうか?
相当、役に立ちましたね。学校の講義録をマインドマップでとっていったんです。100 コマ分くらい。学校にはマインドマップの練習をしに行っているぐらいでした(笑)。あ、ここであまりマインドマップの話をしてしまうとたぶん止まらなくなるので、そろそろフォトリーディングの話に入ってもいいですか?
―はい、お願いします!
フォトリーディングとの関わりは、やはりマインドマップからです。当時、マインドマップはまだ正式なセミナーがなかったのですが、フォトリーディングは 2000 年から神田さんが教えていて、その講座の中でマインドマップも当然教えていた。だから、いろいろなセミナーに行って、マインドマップを描いている人に出会うと、たいがいフォトリーディングをやっている人なわけです。それで、あ、フォトリーディングというものがあるんだ、と思って、その流れで、2006 年にフォトリーディングの講座を受けたんですね。山口佐貴子さんの講座でした。
講座を受けたのは、私が会社を辞めて、半年にわたる診断士の研修に行く直前でした。もともと片道切符な上に、そのとき家族 3 人と持ち家がありましたから、大変なことなわけですよ。でも、たまたま会社の残業代が最後の方に出て、それを家族に内緒でつぎこんで。それで受講したわけですが、翌日から診断士の怒涛の勉強が始まったので、フォトリーディングの復習をする時間は本当になかったんです。
でも、佐貴子さんの講座がとてもよかったのは、フォトリーディングをやろうがやるまいが、あなたには能力があるんだよ、というメッセージがすごく強かったこと。フォトリーディングのステップで知識をインプットするというステージと、そのもう 1 つ下に、自分の可能性は実はもっとあるということを信じられるというステージがあって、その根元の部分が強かった。だから、できると思えたんですよね。
―フォトリーディングそのものについては、講座を受講してすぐ「これはいける」と思われたんですか?
あのね、いけると思いましたよ。僕、当時ブログを書いていて、フォトリーディングを最初に受けたときの文章も残っていると思いますよ。ここに、昔のブログをプリントしてあるんです。(と言って、書棚から分厚いファイルを取り出す)
―こ、これはすごい記録ですね!
記録魔なんです。2006 年 4 月…これだ。ああ、すごく懐かしい。2 日目の講座が終わってこう書いてます。「いっやあああ、こりゃ、すごいよ。脳がスパーク、潜在意識の可能性にくらくら、本は確実に 3 倍以上、今時点でも平均 5 倍速で読めます。。。(中略)ここまですごいとは思わなかった」。
懐かしいな。いま読んでみて、自分はフォトリーディングとマインドマップというツールとともに成長してきたんだな、と改めて思いますね。
僕にとってのフォトリーディングを改めて考えてみると、僕は基本的に創ることが好きで、徹底したアウトプット派だから、アウトプットにフォトリーディングをどう生かすかという観点を大事しているんです。
アウトプットを意識すれば、インプットがもっとよくなるのは明らかなんですよね。フォトリーディングを受講する人は、インプットがしたいんですよ。僕もそうだったからすごくよく分かりますけど、だからこそ、アウトプットに目を向けた方がいいよ、と僕は必ず言うんです。
―これを実現したいから、この情報をインプットするんだと。
そうですね。もしくは、この本を読んだら何か 1 つ行動しよう、というところからでもいいんです。行動のために本を読む、というところまで行ければいいですけど、読んで気づいたアクションを書き出して、そのうちの 1 つでも実行できたらいいねと。呼吸と同じで、いっぱい吐けば、いっぱい吸える。吸っているだけだと、やはり苦しくなります。
アウトプットのおもしろい例で言うと、僕自身がフォトリーディングで役立ったのは、ダイレクトラーニングのスキルです。僕はずっと仕事三昧だったのですが、4 人目の子どもが生まれるとき、さすがに奥さんに休んでもらおうと思って、1 ヵ月仕事を休んで家事をやったんです。それまでの数年間、僕はあまり家事をやってこなかったので、料理のレシピ本などをダイレクトラーニングしたんですね。お陰で、家族 5 人分の食事作りを結構段取りよくできたんですよ。
昔の自分なら、男の料理にありがちな、台所をすっかり汚して自分でも嫌になっちゃうみたいな感じだったと思いますが、フォトリーディングやマインドマップで、俯瞰する力や段取り力も付いていたんですよね。
フォトリーディングとアウトプットの関係を、ちょっと噛み砕いて説明してみますね。(と言って、紙に図を書く松岡さん)
こんなふうに、自分の中にさまざまな地層があるとすると、これまでにしてきた経験というものは、下の方で固まってしまっています。せっかく持っている知識や情報、つまり「自分の資源」が動かなくなってしまっている。フォトリーディングをやると、そこにポーンと岩が投げ込まれる感じで、ボコボコとその層が動き出すんですよ。
フォトリーディングでは、本を読む前に目的を決めて、質問を作り、その答えを本の内容から引っ張り出します。その引っ張り出すときに、自分のリソースの中の関係するものも一緒に引っ張り出すんですよ。つまり、新しく入れた情報だけではなく、自分の資源からも必要なものを組み合わせていく。あるいはデッドストック、死んでいる経験ですね。特に失敗の経験は、みんなふたをしがちですよね。でも、失敗の経験こそものすごくいい気づきになったりします。ですから僕は、フォトリーディングは「自分の資源を最大化するためのインプット」ととらえているんです。
(後編に続く)