リーディング・ファシリテーターの村上 英範です。
この本「モンスター組織」を読みたい
と思った目的は2つあります。
私は「組織づくり×働く喜び」をテーマにした
「 2 冊でシナジーする読書会」を主催しており、
組織づくりのプロセスを深めるために本書を読みました。
職場に必ず付きまとう組織課題に対して、
コンサルティング会社がどのようなプロセスで
どのような解決策を導いているのかを学び、
自分の中に事例を増やすことが目的の 1 つでした。
2 つ目は、私自身の職場において、
閉塞感のあるチームが
生産的かつ効果的に変化していくために、
私がどのような取り組みを行えばよいか、
視座を変えて考えることでした。
表紙の裏や本書の中でも繰り返し出てくる表現
組織課題の原因は「人」や「集団」ではなく、
その組織メカニズムによる認知の歪みである。
見方を変えると被害者だと思っていた人が実は加害者だったり、
加害者だと思っていた人が、実は被害者だったりする。
実際は、社内に敵はいないのだが、意識の中で
「組織」という名のモンスターは勝手に自己増殖していく。
モンスター化した組織を正常化する唯一の方法は
組織のメカニズムを正していくことである。モンスター組織より引用
に集約されており、登場する 8 つの事例を学ぶことで
自身の中に「疑似体験」を増やすことができます。
組織のメカニズムは、組織制度やツール(ハード面)と、
組織心理(ソフト面)に根差しています。
前者は具体的で分かりやすいのですが、一方で、
組織における安全性や信頼性といった後者は
成果や数値としては見えにくいです。
したがって、組織変革では「手法」ばかりが強調されます。
しかし、本当に重要なのは、
その表面的な制度の下に根を張っている
社員の「心理状況」の方なのです。
ここを解決していくためには、
その人特有の根源的な想いや、
時間軸を共有することが求められます。
本書では「ライフウェークシート」という
その人のストーリー(感情曲線)を用いて
相互理解を醸成する方法が紹介されています。
組織の閉塞感の原因の1つである対立構造。
Aさんが正しくてBさんが間違っている
といった表面的な類のものではなく、
置かれている立場や見ている時間軸などの
違いによって生じている本質的な対立構造です。
冷静に整理すれば分かることなのですが、
感情面が先行し、表面的に判断してしまっていることが
多いのではないでしょうか。
この認知の歪みにより、
本当は仲間であるはずの社員を敵視してしまい、
人も組織も動けなくなっているのです。
他にも、過去の成功体験や失敗体験が
変化を妨げることは往々にしてあります。
新しく入った社員は過去のしがらみがないため、
未来思考で物事を考える一方、
長い間そこにいる社員は、
これまで踏襲してきた経験や伝統を
重んじる傾向にあります。
どちらが優位かというと後者になります。
過去体験の尊重が何度も繰り返される中で、
未来を目指す社員たちは、
次第に重たい組織を諦めて外に出るか、
中で静かに息を潜めるようになります。
このように自社や自己の内面に縛られることが、
未来への1歩を重くしているのです。
では、それを解決していくためには
どのように取り組めばよいのでしょうか。
本書にはアプローチをする順序が大切だとあります。
まず始めに、自社や自分を取り巻く環境や対立構造を正しく見ます。
その次に、観察結果から戦略を描きます。
なぜこの順序なのかというと、
適切な戦略がないままハード面だけを変えようとしても
新たな摩擦や余計な対立構造を生んでしまうからです。
組織の全体観を捉えた上で、
自分たちの環境に適切であろう戦略を仮説立て、
平衡感覚を保ちながら、未来志向で関わっていく。
このことが、組織と共に生産的かつ効果的に変化していくために
必要なことになります。
著者は「組織変革に万能薬はない」ので
「組織変革の疑似体験を増やす」ことが
本書の重要な役割であると述べられています。
さらに「組織の課題は解決された途端に、
次の課題が降って湧いてくる
(システムやツールの進化とは裏腹に、人や組織の内面の課題は
何千年も前から同じところをぐるぐる回っているから)」とも
書かれています。
これは言い換えると、本書の8つの事例の結果も、
あくまで通過点であり、
それぞれのケースにおいて
新たな課題が現れているということです。
すなわち、本書で
「組織変革の疑似体験を増やす」ことができた私たちは、
「その先」を想像していくことこそが
大切なのではないでしょうか。
そこから生まれた仮説こそ、
自分の環境をより良く導ける骨太な
「現場力」になっていくと考えます。
自分がいる組織の状態について
視座を変えて考え直したい人。
組織づくりやチームビルディングが
思うように上手くいっていない人に
読んでもらいたいです。
本書はどちらかというと、
経営層やそこに近い人たち、
あるいは人事部が主語で書かれていますが、
様々な視座の知見を追体験できるので、
立場や役割に関係なく、
自身を取り巻く組織のメカニズムに対して
どのように対処していけばよいか
仮説を立てることができます。
自分と組織の状態が見えてくると、
感情に振り回されず、
未来志向で動けるようになるので、
より良い「仕事」ができると考えます。
村上 英範
サイエンスファシリテーター、組織学習パートナー
活動地域 大阪・兵庫
インタビュー記事
https://souspeak.com/rikeieigo/interview-engineer-murakami/
お父さんはサイエンスファシリテーター
http://startup-papa.hatenablog.com/