2022年5月に発売された神田昌典氏の著書
『未来実現マーケティング~人生と社会の変革を加速する35の技術~』。
先日、「岡山ビジネスアカデミー」では、こちらの書籍をテーマに読書会を開催しました。
今回はその読書会で行われた質疑応答の内容について、詳しくご紹介していきます。
岡山ビジネスアカデミー(以下、岡):神田さんの書籍『未来実現マーケティング』ですが、
とても面白くて、興味深く読ませていただきました。
ズバリこの本はどんな人に届けたくて、またどんな思いで書かれたのでしょうか?
神田(以下、神):本の第1章に書かれているように、やはり一番は「国家的なリーダー」というか
大きな組織のリーダーに手に取ってもらいたいです。
というのは、やっぱり今この世の中で戦争が起きているのはおかしい状況だと思いませんか。
この本を書いているときには、まだウクライナ戦争は勃発していませんでした。
我々はコロナで多大な犠牲を払ったわけですが、それによって一気に地球は一つになった、
そういうポジティブな面もあったと僕自身は思っております。
さらに、SDGsという非常にポジティブ動きがあったので、多大な犠牲は払ったものの、
戦争に向かわなくても新しい時代転換ができるのではないかと思っていましたが、残念ながらそうはならなかった。
人類は同じようなことを繰り返してしまうわけですが、我々が「別の解決策」へ向かっているのであれば、
大企業とか、組織体のリーダーである方々に手に取っていただきたいというのが本音です。
もちろん、実際にそのように世の中が変わるかというと、残念ながらそうでないところもあります。
しかし今、学校が変わるこということは、子どもたちが大きく考えるきっかけになりますし、親も同様です。
正直言うと、教育とは国民運動だと考えています。ですから、教育変革という重要なタイミングで、親である皆様方や、
その他の学生さん、身近にいらっしゃる方、社会を作っていく立場にある方々に少しでも
「マーケティングによって僕らを変える力があること」を知ってほしいです。
ペインや個人的便益をどう探していくか?
岡(Tさん):私は、クリーンエネルギーの項目を読書会のテーマにしたのですが、
本の中ではテスラ・モータースの例が書いてありました。
ここでは、携帯電話の充電をペインにしてクリーンエネルギーのことに言及しており、
すごく分かりやすかったのですが、それ以外の項目のときに、
その人にとっての「痛み」や行動に移せるような「個人的便益」はどうしたら探せるのでしょうか。
神:お客様の抱えているペイン、もしくは対象とする方の抱えている痛みは何かと考えると、
そのお客さんへ提供できるベネフィット・価値が見えてくることになります。
それがテスラ・モーターの場合はクリーンエネルギーだったわけですが、
実際のところイーロン・マスクは「自然エネルギー」についてそれほど大きくは打ち出してはいないわけです。
要は、「これからは石油エネルギーではなく、太陽光だよね」ということを
打ち出すこともできたはずなのですが、そうしなかった。
むしろ「個人的なペインって一体何?」って言ったときに、
災害や停電の際に携帯電話が使えない点にフォーカスしたところが非常に大きいです。
それは自然エネルギーだけでなく、貧困を解消する場合も同じです。
しかし、日本にいながら「食料が食べられない飢餓」というのはあまりない。
だからこそ、「飢餓」と言った場合に、それに関わる個人的な痛みがどこなのかはしっかり把握しておく必要があります。
日本で言えば、質的貧困とか質的栄養不足などについて
「実際にこれは大きな問題だ」ということに気付いている人もいると思います。
たとえば、うちの母が80代半ばぐらいなのですが、先日自宅に行ったら非常に痩せていました。
元気ではあるのですが、全然栄養が摂れてないといった事情があるわけですね。
本人はちゃんと食べていると思っていますが、十分に栄養を吸収できているのかと言われればそうではない。
そこには、日本であっても「ペイン」が存在するわけです。
そういったことをきっかけに自分のやっているライフワークと繋げていくこともできるので、
やはり「ペイン」を意識することは共感を生むマーケティングにとても大切だと思います。
なぜ本のタイトルにSDGsについて言及しなかったのか、その真意とは?
岡(Kさん):今回神田先生に質問したいのは、
なぜ表紙やタイトルに「SDGs」という文字が一言も入っていないのか、という点です。
本の裏側と帯にほんの少し説明が書いてあるのですが、本屋さんで見たときにこれがSDGsの本とは分かりませんでした。
中身を見て「SDGsの実践本」だと気づいたわけですが、
そういった意味で世の中に溢れているSDGs本と呼ばれるものとは違うと感じました。
これは何かマーケティング的な意図や特別な想いがあったのですか。
神:実はこの本は、「探究で突破せよ」というのが当初のタイトルだったんですね。
本の中では、教育変革を通じて社会を変えていくことを訴えました。
ところが、「探究」というのは誰も興味がないというか、学校の先生でさえ十分に意味を理解していない。
そうすると、なかなか売りづらいわけですね。
SDGsについても、認知度が実際には80%を超える状況ではありますが、
社会的正義と生活者のペインを考えると、社会的正義ってやっぱり売れないんですよ。
表面的には「SDGsっていいよね」と言うのですが、本音ではコストカットだとか、
本当この人口減で成り立たせることができるのかとか、やっぱりそういう意見も出てきます。
大義名分では「個人的な行動を起こさないと」というところがあります。
正直なところ、マーケターとしては「社会を変えながらも、
個人的な利益・ベネフィット・価値をしっかり前面に打ち出して、その結果入ってみたら世界があった」というのが
変容を促すための道筋だと考えています。
これは先ほど言いましたけど、この本はやっぱり企業の方に手に取っていただきたい。
企業の人たちはお題目としてSDGsをやらなければいけないのですが、
具体的なノウハウはないので、利益を上げながら推進していくことが大切です。
そういった面では、この本は「こうやって人が繋がり合うこと」を同時に設計したという意図もありますね。
神田昌典のアンテナの広げ方
岡(Dさん):僕は障害者の就労支援の仕事をしております。
今まで、世間一般から見ると障害者は教えられる側であり、与えられる側であり、支えられる側と捉えられてきました。
この本ではそれを逆手に取って「障害者から学ぶ価値」が述べられていたのですが、
それを見て「ああそうだな。それを求めている人は確かにいるだろう」と目からウロコだったんです。
これは本当に素朴な質問なのですが、神田さんはあらゆるジャンルにおいてこうした広い知識と深い考察を得ていらっしゃいますが、それはどこから情報を得て、どういうふうなアンテナを広げているのでしょうか。
神:やっぱり僕らはそのバイアスを持って見てしまうじゃないですか。アンコンシャスバイアスってやつです。
依存症に対するダルクさんの事例や素晴らしい映画なんかを見ると、
自分たちのバイアスがいかに自分の可能性を引き狭めてしまっているのかというところに本当よく気づくわけです。
僕がどうやって視野を広げているか、と言う話でいけば、前世を見ています。
前世というのは冗談ですが、それをいい方向に使えば、
「平和な世の中を300年続ける!」というようなミッションに繋がるわけですよ。
何年も前に、ある出版社の社長からすごいシャーマンがいるぞと言われて診てもらったのですが、
「あなたは僧侶の中でも唐招提寺の坊さんだから唐招提寺の戒壇に行け」と言われたんです
戒壇は、言うならば教育大学で教員免許を授ける場所。
そこから僕は、マーケティングとは実は金銭教育であり、これからはとにかく教育だなと気付いて、
やっぱり社会的な責任というものをすごく考え始めたわけです。
冗談だけど、いいじゃないですか。たとえば「自分の師匠が鑑真です」と言うと、想像するしかない。
12年間盲目になっても、一つのミッションを実現してきた人に僕は心から共感していて。
そういうようなところからぶれてしまってはいけないな、との歯止めにもなると思います。
つまり、目に見えないものというのはいっぱいいいことがあるわけです。
そもそも愛っていうのは目に見えないじゃないですか。その辺は建前と本音がありますが、
やっぱり今の時代はそれをバランスよく使うことが非常に処世術としてもいいんじゃないかな。
すべての人に健康と福祉を、というテーマへのマーケティングアイディア
岡(Yさん):私は24年前に交通事故に遭ってから車椅子で生活しています。
身体障害者領域の尊厳を開放していきたい、またそれを支える介護士を集めたいとの思いでずっと活動しているんですが、
やっぱり99%が高齢者のイメージでなかなか上手く広がらない。
今回SDGs3番の「全ての人に健康と福祉を」という目標について、マーケティングのアイディアをいただけたら嬉しいです。
神:ある一つのマーケティングアイディアが突破口になるかというと、実際には各自で突破口が違うところは正直あります。
より根源的に健康と福祉を考えると、「地球の健康」に行きつきます。
3番の対構造になっているのが15番の「陸の豊かさを守ろう」ですね。
結局、土が健康にならないと地球環境や一人一人の健康には繋がりません。
つまり我々は「安全な社会に生きたい」「苦しみへの感情を避けたい」、この両極なのです。
これらが満たされないと、残念ながらここをいくら語っても駄目で、逆にここを語らないと抜け出せないです。
全世界で今196カ国あるとして、日本はそのうちGDPが3位。ものすごく恵まれているわけですが、
一方で世界を見渡すと、国を追われるとか、アフガニスタンのようにテロが横行していたり、
ウクライナのようについ最近まで非常に豊かだったところが戦争をしていたりと、そういうところばかりです。
そうすると、今の世の中は階層に分かれているわけです。
要は、地獄から天国までいろんな階層があって、生きる世界が違っているんですよね。
その中で、自分が「どの領域で」「何をやっていくか」は複雑で、必ずしも一つの答えにはならない。
奉仕をするっていう解決策もありますが、「奉仕」と言うとどうしても個人単位になる。
ですから、ビジネスや社会的なインパクトという意味では、限定されてしまうのが正直なところであります。
でも、それが不幸せか?と言うとそうではなくて、逆にこっちの方が幸せだったりするわけじゃないですか。
もうちょっと経験を積んで、仲間も増えて、となると、今度は「この予防医学だ」とか「心理ファイナンス」だとかが出てくる。
たとえばそれが福祉の現場であったりすると、介護の先進国から新しいものを仕入れて、
「それなら私もできる!」となっていくと、それは教育になるわけです。
それでもって多様性のあるチームが集まると、これが全世界の福祉情報や福祉テクノロジーを集めたメディアになってくる。
そうすると今度はそれが商品になり、今度は大企業と提携することもできる。
そして、それらが使われている現場とネットワークで繋がれば、ビッグデータのような情報が今度は価値になる。
さらにAIということになると、それは技術になるわけです。
よって、僕らが何かやろうとしているこの時代は、
「人類の進化」に関わっているので1人1人が最善の役割を果たしていくことになります。
逆に言うと、昔のように「野球を見れば、みんなが野球を見る」時代ではありません。
自分の意思を持って、周りに1人でも2人でも仲間が集まると、
「自分の生まれてきた力」「自分らしい」を使って人類の進化における貢献ができるみたいな感じでしょうか。
AIは取っ掛かりにくいものなのか?
岡(Fさん):私は、今「AI」がすごく鍵を握っていると思っています。
今後AIをどんどん使っていけるようになれば、いろんな非合理的な判断や間違った判断などを見ながら、
より中小企業の強みを発揮できる社会になっていくと考えています。
ただ現状は、AIどころかそのExcelベースでのデータすら蓄積できてないような会社が多くて、
この辺りから一つずつ立て直していきたいのですが、まだまだ一般的にはとてもハードルが高いと感じています。
この最初の取っ掛かりとして、AIに触れる・体験する・使ってみるといったところで
「最初の一歩」になるような、学べる場やツールがあれば教えていただけますでしょうか。
神:実際には、AIをことさら理解しなくても、至る所でAIが使われているわけですよね。
たとえばZoomだって、AIによって議事録を作る機能があります。
なおかつその音声入力は、すごい勢いで精度が上がっていますよね。
Google翻訳も3年前は全く使えなかったのですが、現在は十分に使えます。
どうしてそんなに精度が短期間で上がったのかと言えば、それは機械学習なわけじゃないですか。
そう考えると、実はそれほど難しくはありません。
AIというのは、Googleのマシンラーニング機能があってそれで無料で使えるわけです。
たとえば、ロボット作りをやっている小学校4年生の子どもに「マシンラーニング使ってみましょう」みたいなこと言うと、「何か急に障害物を避けるようなりましたよ」なんて遊びながら学んでいくので、全然難しくはないのです。
先ほどデータが集まっていないと仰っていましたが、ここでもデータが集まっていますよね。
今Zoom上で皆さんが発言していただいて、
どういう質問をして、ビフォー&アフターでどういうような気づきの広がりがあったか、というのも全部データなわけです。
やっぱりこの2年間のコロナ禍によって、データがものすごい勢いで集まり始めている。
昔はこのデータをくっつけるようなAPI連携が難しかったのですが、
今はほっとけば勝手にくっついているというような状況であります。
今は、あらゆる状況になっているデータをクラウド上で再編集し、
それをAIで動かすこともできるようになっているので、繋げる必要もだんだんなくなってきている。
さらには、今バラバラにあるものを「意味のあるもの」にして、
この作業をやったら次はこの作業をやりましょうね、みたいなことを最適化して提示してくれるわけです。
正直なところ、遅れている方が、何もしなくても結果的に便利になるという時代ですよね。
だから、遅れているから悪いという話では全然なくて、むしろその方が福があるのではないかと思います。
結局、デジタル化されたものは無料に近くなりますから、人でしか提供できないものが当然高くなります。
外壁塗装ってドローンにもできないからね。そう考えると、最終的には「人間力」をどうやって養っていくかです。
なおかつそういった方々に優しい気持ちを持ちつつも、全体を効率化するような経営ビジョンは必要だと思います。
地方創生や高齢化社会の問題とかいろいろありますが、特別な心配は要らない。
遅れている人たちがいてくれるおかげで、子どもたちがどれだけ勇気づくことか。
「パパとママがデジタルに遅れているから僕が何とかしなくっちゃ」と子どもの方がいい子に育つわけです。
だからその辺は自分の好きなことをやっていれば万事オーライっていうぐらいの方がいいんじゃないですか。
リードフォーアクションとは?
今回は、岡山ビジネスアカデミーの読書会での質疑応答シーンを抜粋して、
読者の皆様にもお届けしました。
リードフォーアクションは、「世界最大級の行動するための読書会」です。
この会に参加する最大のメリットは、読書を通して仲間と共にダイアログをし、新しい自分に出会うための経験ができる点。
本をきっかけに仲間と出会い、対話をすることで、知恵が生み出され、新しいアクションへ繋げることができます。
リードフォーアクションにご興味を持たれた方は、未来実現マーケティング読書会に参加してみませんか?
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