経営戦略とマーケティング戦略は、両方とも企業が長期的に利益を獲得するために必要な戦略ですが、取り組み方についてはそれぞれ異なる視点が必要です。
経営戦略とは、全社的な視点からヒト、モノ、カネ、情報の配分を決定する活動です。一方、マーケティング戦略は、特定の商品やサービスを市場に売り出す際に、いかに効率的に市場に浸透させるかを目指す大局的な作戦を意味します。
ただし、経営戦略とマーケティング戦略は密接に関連しており、経営戦略がマーケティング戦略に影響を与えるケースがあるのも事実です。
そこで今回は、経営戦略とマーケティング戦略について、双方の違いや目的、分析手法などを徹底解説します。企業の運営に携わる方は、ぜひ参考にしてください。
経営戦略とは、企業が経営目的を達成するために立案する、方策や指針のことです。
一般的に、企業としての経営戦略を策定する際には、最初に「全社戦略」を構築した上で、それを「事業戦略」「機能戦略」へと落とし込んでいきます。
経営戦略は、企業を取り巻く経営環境が目まぐるしく変化し、不確実性が一段と増している現代において、会社全体の戦略を考える上での基盤となる重要な指針です。
経営戦略は、全社的な視点からヒト、モノ、カネ、情報の配分を決定する活動であるため、人事、法務、財務など、企業経営に関するあらゆる分野を総合的に考慮し、長期的な目標を達成するための道筋を定めるものと言えるでしょう。
以下では、経営戦略について「全社戦略」「事業戦略」「機能戦略」それぞれの意味と役割を解説します。
経営戦略における全社戦略とは、企業全体の方向性や進み方を示す方針のことです。
全社戦略は、企業が進むべき方向性を示し、持続的な競争優位を確立するために設定されます。
全社戦略については、経営層が主に決定するもので、会社としてのミッションやビジョンが明示され、個別の事業戦略に落とし込みながら、全事業のポートフォリオが決定されます。一般的には、全社戦略から事業戦略に落とし込まれるのが通常ですが、反対に事業戦略をもとに全社戦略へと反映される場合もあり、双方向に関連した戦略であるとも言えます。
経営戦略全般においては、持続的な競争優位を確立するために、全社戦略とともに、個別の事業戦略も重要です。
事業戦略は、事業ごとに個別に策定され、全社戦略との整合性の中で決定されます。そして、事業としてのミッションやビジョンを決め、その方向性や進み方を示すものです。
ただし、日本企業においては、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進において、全社戦略や事業戦略を明確に設定していないケースがあることが指摘されています。それは「DX推進を攻めのビジネス戦略と捉えていない」ことや「DX人材の不足」などが障壁となっているためで、現状把握と取り組み領域の検討が早急に求められている課題といえるでしょう。
事業戦略とは、企業の各事業において競争優位性を獲得するための方針や取り組みを決定する戦略です。
事業戦略は、企業が事業ごとに立てる戦略であり、その事業の競合環境における強みや弱みを分析して、独自の商品やサービスを提供することによって差別化し、市場において優位に立つことを目指します。
事業戦略については、経営戦略の階層構造の1つであり、全社戦略(企業戦略)と機能戦略(機能別戦略)とともにピラミッドで表現されます。
全社戦略が企業全体のビジョンや方向性を示すのに対し、事業戦略は、各事業における競争戦略を策定することが主な目的です。
事業戦略を策定する際には、市場調査や競合分析などを行い、自社の強みを活かすことができる商品やサービスの開発、販売チャネルの選定、販売促進活動の計画などを決定します。このように、事業戦略は、経営戦略全体の中でも重要な位置を占めるため、しっかりと策定し、適切に実行することが企業の競争力向上につながります。
機能戦略とは、事業分野において必要な機能ごとの戦略のことで、営業戦略や財務戦略、人事戦略、商品開発戦略など、事業戦略を実現するための施策を機能別に落とし込んで考えることです。
機能戦略は、全社戦略に基づいて、経営資源を事業ごとに配分し、それを事業に基づいて各機能に割り振ることで実現されます。また、機能戦略は、事業戦略の戦略目的や目標を達成するために必要な、機能ごとの戦略目標を達成することが目的であり、各機能戦略の戦略目標の達成が、事業戦略の成功につながります。
このように、機能戦略は、事業戦略と密接に関係しているのが特徴です。 また一方で、機能戦略は、事業の内容や規模によって「戦術」「政策」「施策」などと呼ばれることも多く、戦略として扱われないケースもあります。
マーケティング戦略とは、自社の商品やサービスを、どのように市場や顧客に提供するかを決めるための計画です。
マーケティング戦略については、一般的に「誰に」「どんな価値を」「どのように提供するか」の3つを軸として戦略を決める取り組みを指します。
また、マーケティング戦略は、目的・戦略・戦術の3つの段階から成り立ちます。
目的とは、商品やサービスの販売やブランド認知の拡大など、企業が達成したい目標のことです。戦略とは、目標を達成するための中長期的な計画であり、リソース(ヒト・モノ・カネ)を無駄にしないように効率的に活用することが重要です。そして、戦術とは、販売方法や広告など、具体的な手段のことを指します。
マーケティング戦略を立てる最大のメリットは、リソース利用の最適化を図れる点といえるでしょう。直感に頼ったビジネス展開では、リソース(ヒト・モノ・カネ)を無駄にしてしまうことが少なくありません。そこで、自社のリソースを効率的に利用するために、マーケティング戦略を立てることが重要となります。
マーケティング戦略については、フレームワークの活用が必要であることから、取り組みが難しいと思われるかもしれませんが、マーケティング戦略の根本は非常にシンプルで、業界や商材を問わずに使える「考え方」です。
マーケティング戦略の考え方をベースとしてフレームワークを使うことで、マーケティング施策をスムーズに実現できます。
経営戦略とマーケティング戦略は、どちらも企業がビジネスを展開する上で非常に重要な要素です。しかし、それぞれが取り組むべき内容や目的は異なります。
経営戦略は、企業全体の方向性を決定する戦略であり、前述したように、大きく分けて3つのレベルがあります。
1つ目は全社戦略であり、自社で取り組むべき事業領域を決定することを指します。
2つ目は事業戦略であり、各事業における競争優位性を確立するための戦略を立てることを指します。
3つ目は機能戦略であり、企業機能ごとに戦略を立てることを指します。
一方、マーケティング戦略は、顧客を中心にしたビジネス活動を展開するための戦略です。顧客ニーズに基づいて製品やサービスを開発し、それを市場に販売することを目的としています。マーケティング戦略には、4P(Product、Price、Place、Promotion)と呼ばれる4つの要素があり、それぞれの要素に基づいて戦略を立てます。
このように、経営戦略は企業の全体的な方向性を決定する戦略であり、マーケティング戦略は顧客ニーズに基づいて製品やサービスを開発し、販売するための戦略です。
両者は目的や取り組むべき内容が異なるため、別々に立てる必要があります。
経営戦略の立案は、企業が成功するために重要なポイントです。
経営戦略を適切に立てることで、失敗を少なくし、企業の利益につながるような方針や計画を定めることができます。
経営戦略の立案には決まったルールはなく、フレームワークを利用することも可能ですが、正しいプロセスを踏むことが重要です。具体的には、自社の強み・弱みを把握し、リソースを適切に配分することが必要です。また、経営戦略は具体的な一つひとつの施策ではなく、中長期的に見た全体的な方向性であることを理解しましょう。
戦略立案にあたっては、以下のポイントを押さえておくことが大切です。
また、経営戦略を立てる際には、以下のフレームワークがよく用いられます。
この3つのフレームワークについて、以下でそれぞれ解説します。
SWOT分析とは、経営戦略を立案するために用いられる現状分析手法であり、内部環境と外部環境のプラス面・マイナス面を洗い出すことで、自社の強み、弱み、機会、脅威を明確にすることが目的です。
SWOTとは、Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の頭文字から成る言葉で、内部環境と外部環境における各要素を表しています。
内部環境は自社内を意味し、外部環境とは市場や競合他社など、自社に影響を及ぼす外部要因を指します。
PDCAサイクルとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)という4つのフェーズを繰り返すことで、業務の品質や効率を改善するための手法です。
PDCAサイクルは、継続的な業務の効率化を図ることを目的としており、スピーディな業務改善を進めていくために「PDCAを高速で回す」という表現が使われています。PDCAサイクルを適用することで、業務の生産性や品質向上に役立てることができます。
ポーターの競争戦略とは、企業が生き残るためのポジショニングや戦い方を提唱する経営戦略論です。この理論は、競合他社に打ち勝ち業界の中で競争優位を築くための枠組みとして、世界中で使用されています。
ポーターの基本戦略は、コスト・リーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略の3つに分類されます。企業は、自社に合った基本戦略を1つ選び、単独で実行することが基本ですが、状況によっては複数の基本戦略を組み合わせ、同時に行うことも可能です。ポーターの理論で有名なのが、5つの競争要因(ファイブ・フォース分析)と3つの基本戦略です。
ファイブ・フォース分析は、業界の競争環境を分析するためのツールであり、競争要因として、新規参入の脅威、代替品の脅威、顧客の交渉力、供給業者の交渉力、既存競合他社の脅威を考慮します。また、3つの基本戦略は、コストリーダー戦略、差別化戦略、集中戦略の3つで、企業は、これらの戦略を組み合わせることで、競争優位を獲得することができます。
このように、経営戦略を立てる際は、自社の強みや弱みを把握し、フレームワークを適切に利用することが重要で、経営環境の変化に対応して戦略の再評価を繰り返すことが大切です。
マーケティング戦略の立案方法には、大きく分けて3つのフェーズがあり、それぞれ「3C分析」「STP分析」「4P分析」と呼ばれます。
以下でそれぞれ解説します。
3C分析とは、自社や事業が成功するために必要な要因を探り出す分析方法の一つです。
3Cとは、Customer(顧客)、Company(自社)、Competitor(競合)の頭文字をとった言葉であり、それぞれの要素を分析することで、自社の強みや弱み、競合他社との差別化点や市場ニーズを把握することができます。
この分析手法は、マーケティング戦略の策定や事業計画の立案に活用されます。また、新規事業の開発や市場調査、顧客ニーズの把握などにも役立ちます。
3C分析の特徴は、外部環境として市場・顧客、競合を分析するだけでなく、自社の内部環境も含めた全体像を捉えることができる点です。
具体的には、自社の資源や能力、製品・サービスの特徴や差別化点、競合他社との比較などを分析することで、事業戦略の策定や改善点の発見につながります。
3C分析は、自社や事業を成功させるための重要な手法の一つであり、幅広い分野で活用されています。
STP分析とは、マーケティングにおいてよく用いられる分析方法の1つです。
STP分析は、Segmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)という3つの英単語の頭文字から名付けられた言葉で、自社や商品が市場におけるどの位置にあるのかを明確化し、その後のマーケティング戦略を策定するために利用されます。
STP分析の手法は、新規事業を展開していく上で有効なフレームワークとして位置付けられており、自社の強みを発揮できるポジションを探り、競合他社との差別化を狙うことができます。
STP分析では「誰に、何を、どのように売るか」というマーケティングのテーマにおいて、「誰に」と「何を」に関わる視点として重要です。
4P分析とは、マーケティング施策を企画・立案する際に用いられる分析手法の1つです。
4P分析は、自社製品・サービスを「Product(自社の製品・サービス)」「Price(価格)」「Place(販売場所・提供方法)」「Promotion(販促活動)」の4つの視点から分析し、その強みやアピールポイントをマーケティング企画に活かすフレームワークです。
4P分析では、自社製品・サービスを分析し、販売戦略につなげることができます。また、4P分析の各項目は独立したものでなく、それぞれに関連性がある状態でなければなりません。マーケティングがデジタル化されても集客の重要性は同じです。ただ、デジタルによって複雑化したマーケティング施策をどのように戦略に落とし込むか、ここで経営者の力量が問われるでしょう。
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このように、経営戦略とマーケティング戦略には、目的や戦略立案の手法に違いがあります。
経営戦略とマーケティング戦略を要約して比較すると、経営戦略は企業の全体的な方向性を決定する戦略であり、マーケティング戦略は顧客ニーズに基づいて製品やサービスを開発し、販売するための戦略です。
これらは、両方とも企業の成長や持続に欠かせない戦略であり、重要な活動です。そこで、もし、経営戦略やマーケティング戦略に関する質問や疑問があれば、いつでもアルマ・クリエイションにご相談ください。それぞれの企業ごとに最適なソリューションをご提供いたします。
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