グローバル化が進み、多様な人材が働く現代の企業環境においては、ダイバーシティーマネジメントの重要性が高まっています。
性別や年齢、国籍、文化的背景など、さまざまな違いを持つ人材を活かし、組織の競争力を高めるこの経営戦略は、多くの企業が取り組むべき課題です。
実践には多くのメリットがある一方で、課題も存在します。
本記事では、ダイバーシティーマネジメントの定義から、そのメリットや実際の成功事例、そして直面する課題まで、わかりやすく解説します。
かつては画一的で均質な労働環境が日本企業の主流でした。
しかし、グローバル化や少子高齢化、女性の社会進出など、社会環境の変化が著しく、企業を取り巻く状況も大きく変化しています。
こうした状況下で、持続的な成長を遂げるためには、多様な人材を積極的に受け入れ、それぞれの個性を活かせる環境づくりが不可欠となっています。
そこで注目を集めているのが、「ダイバーシティーマネジメント」です。
ダイバーシティーマネジメントとは、異なる価値観やバックグラウンドを持つ人々が互いを尊重し、認め合い、それぞれの能力を発揮できる環境の構築を目指す取り組みです。
具体的には、性別、年齢、国籍、宗教、障がい、LGBTQ+など、さまざまな属性を持つ人材が活躍できる組織作りを目指すことが求められます。
多様な価値観や経験を持つ人材が集まることで、イノベーションが促進されたり、新たな市場開拓につながったりするなど、さまざまなメリットが期待できます。
ダイバーシティーマネジメントは、単なる人事施策を超え、事業成長や組織強化を促進する重要な経営戦略です。
その背景には、以下の3つの理由が存在します。
現代は、価値観やライフスタイルの多様化が進んでいます。
消費者のニーズも複雑化しており、画一的な商品やサービスでは対応しきれません。
ダイバーシティーマネジメントの促進は、多様な視点を取り入れた商品やサービス開発が可能となり、顧客満足度の向上や新たな市場開拓につながります。
少子高齢化や人口減少により、労働人口の減少が深刻化しています。
ダイバーシティーマネジメントを促進すれば、女性や外国人、障がい者など、これまで活躍の機会が限られていた人材に活躍の場を与えられ、労働力確保につながります。
ビジネスのグローバル化が進む中、海外市場への進出や海外企業との競争が激化しています。
ダイバーシティーマネジメントの促進は、異なる文化や価値観を持つ人材と協働するスキルを身につけ、グローバルなビジネス展開の成功の可能性を高められます。
ダイバーシティーマネジメントのメリットには、ビジネス面・社会面のそれぞれのメリットがあります。
ビジネス面でのメリットは、以下のとおりです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ダイバーシティーマネジメントの導入のメリットの一つは、人材不足の解消と採用力の強化ができる点です。
多様な背景を持つ人材を積極的に受け入れることで、従来の採用基準では見逃していた優秀な人材を発掘できます。
女性や高齢者、外国人など、従来の採用基準では見過ごされがちだった人材にもアプローチでき、人材採用の選択肢が広がります。
ダイバーシティーマネジメントは、イノベーション創出を後押しします。
企業でのイノベーションとは、新しいアイデアや技術、製品、サービスなどの導入を意味する言葉です。
従来の画一的な組織では、どうしても思考の偏りが生まれ、平凡なアイデアしか生まれない課題がありました。
しかし、多様な人材が参加すれば、固定観念にとらわれない柔軟な発想が生まれ、常識を覆すような革新的なアイデアが生まれる可能性が高まります。
ダイバーシティーマネジメントは、単なる人材確保の手段ではなく、イノベーションの創出を通じて、企業の成長に貢献する重要な取り組みです。
ダイバーシティーマネジメントは組織を活性化させます。
固定観念や慣れ合いによるマンネリ化を防ぎ、常に新しいアイデアや方法を模索する文化が育まれやすくなるからです。
また、多様性を尊重する環境では、社員一人ひとりが自分の個性や強みを発揮しやすくなり、モチベーションの向上にもつながります。
ダイバーシティーマネジメントは、組織の活性化を通じて、従業員のモチベーション向上や生産性向上など、さまざまなメリットをもたらします。
社会面でのメリットは、以下のとおりです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ダイバーシティーマネジメントの実践は、企業イメージを向上させます。
多様性を尊重し、誰もが活躍できる包括的な職場環境を整備する企業は、社会的責任を果たす先進的な組織として認識されるからです。
顧客、投資家、求職者からの評価が高まり、ブランド価値の向上につながります。
特に若い世代や社会意識の高い消費者からの支持を得やすくなり、顧客基盤の拡大や優秀な人材の獲得チャンスも広がります。
ダイバーシティーマネジメントは、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献します。
具体的には、以下の項目に該当します。
参照:SDGsの17の目標
ダイバーシティーマネジメントは、SDGsの理念である「誰一人取り残さない」社会の実現に向けて、企業が果たすべき重要な役割を担っています。
ダイバーシティーマネジメントの成功事例を3社紹介します。
カルビーグループは、「全員活躍」を掲げ、ダイバーシティーマネジメントを積極的に推進しています。
これは、性別や国籍、年齢、障がいの有無など、多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍できる環境を整えることで、個々の能力を最大限に発揮し、組織全体の成長につなげるという考えに基づいています。
具体的な取り組みは、以下のとおりです。
女性活躍推進 |
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多様な人材の活躍推進 |
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アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の解消 |
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カルビーグループのダイバーシティーマネジメントは、単なる人事施策ではなく、経営戦略の一環として位置づけられています。
資生堂は、「LOVE THE DIFFERENCES(違いを愛そう)」をスローガンに掲げ、ダイバーシティーマネジメントを積極的に推進しています。
資生堂のダイバーシティーマネジメントは、以下の5つの柱を中心に展開されています。
女性活躍推進 |
女性管理職比率34.7%、取締役会女性比率46.2%の目標を掲げ、育児休暇制度の充実や女性リーダー育成プログラムの実施などで女性のキャリア形成を支援 |
LGBTに関する取り組み |
2020年には婚姻の平等(同性婚の法制化)キャンペーン「Business for Marriage Equality」に賛同 |
障がいのある社員の活躍 |
「本気で期待する」「必要な配慮はするが特別扱いはしない」「一生懸命働きたい情熱のある社員を積極的に応援する」の3つの約束に基づき、障がいのある社員の活躍を支援 |
外国籍の社員の活躍 |
日本国内でも多様な国籍・文化的背景を持つ人材を積極的に採用 |
定年後再雇用制度 |
2006年より60歳で定年を迎えた後の再雇用制度を導入 |
資生堂の取り組みは、企業イメージの向上につながっています。
NTTデータは、ダイバーシティーマネジメントを経営戦略の重要な柱として位置づけ、積極的に推進しています。
特に注力しているのが女性活躍推進です。
2019年には「女性のエンパワーメント原則(WEPs)」に署名し、グローバルな視点で取り組みを強化しています。
また、経団連の「2030年30%へのチャレンジ」に賛同し、役員の女性比率向上を目指しています。
ダイバーシティーマネジメントの主な課題は、以下のとおりです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ダイバーシティーマネジメントの大きな課題となるのが、無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)です。
無意識の偏見とは、過去の経験やこれまでの常識に基づいて、自分自身で気づいていないうちに抱いてしまう偏見のことを指します。
無意識の偏見は、採用や評価、昇進などに不公平をもたらし、多様な人材が活躍できる環境を阻害する要因につながります。
さらに、無意識の偏見は、マイノリティに対して無意識のうちに差別的な言動をしてしまう可能性もあり、ハラスメント問題にもつながりかねません。
無意識の偏見は、誰にでも存在します。
重要なのは、その存在を自覚し、適切な対策を講じることです。
ダイバーシティーマネジメントを進める上で、コミュニケーションの壁も大きな課題となります。
多様なバックグラウンドを持つ人材が集まると、言葉の壁や文化の違い、価値観の違いなどによるコミュニケーションの壁が生じることがあります。
コミュニケーションの壁は、個々の社員のストレスやモチベーション低下だけでなく、組織全体の意思決定の遅滞や生産性の低下にもつながりかねません。
コミュニケーションの壁を乗り越えるための対策には、以下のようなものが挙げられます。
コミュニケーションの壁は、積極的に取り組むことで乗り越えられます。
互いを理解しようと努めることが重要です。
ダイバーシティーマネジメントを推進するためには、制度面での課題も克服する必要があります。
具体的な課題としては、以下のようなものが挙げられます。
制度面の課題は、多様な人材が活躍できる環境を阻害し、ダイバーシティーマネジメントの推進を妨げてしまいます。
制度面の課題は、一朝一夕に解決できるものではありません。しかし、組織全体で取り組むことで、徐々に改善していくことが可能です。
ダイバーシティーマネジメントを成功させるポイントは、以下の3つです。
それぞれ解説します。
ダイバーシティーマネジメントを成功させるためには、まずその目的を明確化することが重要です。
漠然と「多様性を尊重する」だけでは、具体的な行動や施策に落とし込むことはできません。
自社がダイバーシティーマネジメントの推進によって、どのような課題を解決したいのか、どのような目標を達成したいのかを明確にする必要があります。
目的を明確にする際には、以下のようなポイントを意識しましょう。
組織が抱える課題 |
採用難やイノベーション不足、離職率が高いなど、組織が抱えている具体的な課題を明確にする |
期待される成果 |
ダイバーシティーマネジメントの推進で、どのような成果を期待するのかを明確にする |
経営理念との整合性 |
組織の価値観やビジョンと整合性のある目的を設定する |
ダイバーシティーマネジメントにはさまざまな目的がありますが、組織が抱える課題や期待される成果などを踏まえ、具体的な目的を設定する必要があります。
目的を明確化せずに取り組むと、効果が薄かったり、思わぬ問題が発生したりする可能性もあります。
ダイバーシティーマネジメントを成功させるためには、単に多様な人材を受け入れるだけでなく、彼らが能力を発揮し、活躍できる環境を整えることが重要です。
そのために欠かせないのが、制度の見直しです。
従来の制度は、画一的な働き方や価値観を前提としたものが多い場合があり、多様な人材のニーズに対応できていない可能性があります。
そこで、ダイバーシティーマネジメントの推進に合わせて、以下のような制度を見直す必要があります。
多様な人材の貢献を評価するためには、成果主義だけではなく、協調性、創造性、リーダーシップなど、多角的な評価軸を導入する必要があります。
また、個々の事情に合わせた柔軟な評価制度も重要です。
他にも、育児や介護と仕事の両立を支援する制度や、能力やキャリアアップを支援する制度なども整備する必要があります。
ライフスタイルや価値観が多様化する現代社会では、柔軟な働き方に対応できる制度が必要です。
具体的には、以下のような制度を充実させることが有効です。
また、副業を可能にする制度や、介護休暇や育児休暇を取得しやすい制度なども、ダイバーシティーマネジメントを促進するために重要です。
ダイバーシティーマネジメントを推進するためには、管理者の意識改革が不可欠です。
そのため、管理者向けの研修を実施し、多様性への理解を深め、アンコンシャスバイアスを克服するための知識やスキルを習得させることが重要です。
また、多様な人材をマネジメントするための具体的な手法や、個々のニーズに合わせたサポート方法などを研修で学ぶことで、管理者のマネジメント能力を高められます。
制度変更は一朝一夕には成し遂げられるものではありません。
経営層と従業員が一体となって、時間をかけて取り組んでいくことが重要です。
ダイバーシティーマネジメントを成功させるためには、自社で研修プログラムを企画・実施するだけでなく、民間の研修制度の活用も有効です。
専門家による高度な知識やノウハウを体系的に学べるため、自社だけでは気づけない課題や解決策を発見できる可能性があります。
民間の研修制度を活用する際には、以下の点に注意する必要があります。
研修プログラムの内容を比較検討し、自社の予算やスケジュールに合ったものを選ぶことが重要です。
また、実際に研修を受講した方の口コミや評判なども参考にすると良いでしょう。
ダイバーシティーマネジメントは、多様な人材を活かし、組織の競争力を高める経営戦略です。
実践すると、人材不足の解消・採用力強化や企業イメージの向上などのメリットがある一方で、無意識の偏見やコミュニケーションの壁といった課題も存在します。
ダイバーシティーマネジメントの成功には、長期的な視点と組織全体の取り組みが不可欠であり、その実現により、持続可能な成長と革新的な企業文化の構築が期待できます。
ダイバーシティーマネジメントの成果は一朝一夕で得られるものではないため、事前準備が必要です。
ダイバーシティーマネジメントを成功させて、企業をさらに成長させるための参考にしてください。
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