日本の総合エレクトロニクスメーカー、総合ITベンダーである富士通では、現在デジタルトランスフォーメーション(DX)企業への転換を急いでいます。
なぜなら、現代のビジネス環境においては、業界や業種を超えたデジタル化により、既存の知識やスキルの陳腐化が非常に速くなっているからです。
そこで富士通では、国内のグループ企業に在籍する全12万人強に対しリスキリング(学び直し)を実施すると発表しました。
今回のリスキリングに対する投資額は、2020年からの5年間で5,000億円から6,000億円とも言われるほどで、リスキリングへの注目の高さが伺えます。では、なぜこれだけ多額の費用をかけてリスキリングを行う必要があるのでしょうか。
今回は、リスキリングの基本的な考えや、富士通がリスキリングで10万人規模の「学び直し」を行う目的について考察していきます。これからリスキリングを取り入れようとお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
リスキリング(Re-skilling)とは、従業員に対して新しいスキルや知識を教えたり、現在のスキルをアップデートすることで、将来的に必要とされる業務に適応する能力を向上させることを指します。つまり、現在の業務に必要なスキルや知識だけでなく、将来的な業務に必要なスキルや知識を身につけることで、自己成長やキャリアアップの機会を提供することが目的となります。
例えば、新しい技術やシステムが導入される際に、既存の従業員に新しいスキルを教えたり、社員が新しいプロジェクトに参加する際に必要なスキルを身につけさせたりすることがリスキリングの一例です。リスキリングは、企業が将来的なビジネスニーズに適応するための人材育成戦略として、注目されるようになっています。
現代の企業でリスキリングが注目される背景には、IT革新やDXの推進が企業にとって不可欠となり、従業員に必要となる知識やスキルが増えたことにあります。
このように企業のIT化やDXの推進が企業に必要となったいま、新たなデジタル技術を導入し、業務の効率化と生産性の向上をおこなうことが、企業が発展・持続するために欠かせなくなりました。
IT化やDXを推進するには、高度なデジタルスキルを有する人材の確保が必要です。しかし、労働人口の減少が進んでいるうえに、デジタル人材が不足している日本国内においては、社内の優秀な人材に再教育を行いながら育成することが重要となります。
また、働き方改革や新型コロナウィルスの蔓延による労働環境や働き方の変化による影響も、リスキリングが注目される要因の1つと言えるでしょう。
近年は、インターネットを利用したリモートワークやオンライン会議・商談などが広く浸透し始め、労働環境が大きく変わりました。このような変化によって、従業員に新たな知識やスキルの習得が不可欠となり、合理的に従業員の教育を実施できるリスキリングが注目されるようになったのです。
労働環境の加速度的な変化が予測される現代の企業においては、リスキリングによる既存社員のスキルアップやキャリア形成の重要性が、今後さらに高まっていくことでしょう。
以下では、ビジネスにおけるリスキリング以外の教育方法との違いを解説します。
リカレント教育とは、社会人が新たなスキルや知識の取得を目的として、自ら現職を退職するか休職し、大学などの教育機関で学ぶことを指します。
自らのキャリアアップのために学習するという点においては、リスキリングと同じ目的ではあります。しかし、リカレント教育は就労と学習を交互に行うのに対し、リスキリングは業務と並行して学ぶところが大きく異なります。
OJT(On the Job Training)は、企業内の上司や先輩社員の指導を受けながら、実務を通してスキルを高めていく手法です。
業務と学びが同時に行われるためリスキリングと近い教育方法ですが、OJTの目的が「現在の業務に必要なスキルを取得すること」であるのに対し、リスキリングは「新たな業務を見据えたスキルを取得すること」という点に違いがあります。
アップスキリングとは、現在の業務でのスキルアップやキャリアアップを前提とした学習です。
キャリア形成のための学習である点においてはリスキリングと同じですが、アップスキリングは、あくまでも「現在求められるスキルをアップすること」が目的です。
この点において、業務内容の拡大や転換を想定するリスキリングとは、学習目的や範囲が異なると言えるでしょう。
リスキリングとは、既存の従業員に対して新しいスキルを教えたり、現在のスキルをアップデートすることで、将来的に必要とされる業務に適応する能力を向上させることです。
企業においては、リスキリングを行うことで、以下のような影響が生じる可能性があります。
リスキリングを受けた従業員は、より高度なスキルや知識を持つため、より複雑な業務に取り組むことができます。このため、生産性の向上に期待ができます。
リスキリングでは、従業員にとって新しい知識やスキルを身につける機会を提供し、自己成長やキャリアアップの可能性を感じさせることが可能です。
その結果、従業員のモチベーション向上に期待ができます。
リスキリングは、従業員のキャリアアップやスキルアップにつながるため、従業員が会社を離れる可能性が低くなります。
業界全体でスキルや知識のレベルが向上するため、企業全体の競争力を高める可能性があります。
一方で、リスキリングを行うことで「教育コスト」や「教育時間」が増加するといったリスクがあります。また、せっかくリスキリングを行っても、市場の変化や技術の進化に追いつくために必要なスキルが予測できない場合もあります。
そのため、企業がリスキリングを実施する場合は、戦略的かつ計画的に行うことが重要です。
富士通が10万人規模のリスキリングを行う目的は、教育投資を大幅に増やして(約4割増加)でも、業務に必要なスキルを社員自らが選び、学べる研修を拡大するためです。また、富士通においては、キャリアの道筋が明確な「ジョブ型雇用」との連動も広げ、学ぶ動機を高めています。
富士通がこれほど大規模なリスキリングを行う背景には、以下のような点が挙げられます。
富士通は、今後のビジネスの成長に必要な人材を確保するために、AIやIoTなどの新しい技術を中心に、10万人規模の従業員に対してリスキリングを行います。
これにより、将来的な人材ニーズに対応できる人材を育成することを目的としています。
リスキリングを通じて、従業員が新しいスキルを身につけることで、イノベーションを促進することが期待されます。具体的には、AIやIoTなどの新しい技術を活用したサービスや製品の開発など、新しいビジネス領域を創造することが狙いです。
リスキリングを通じて、従業員のスキルアップを促し、キャリアアップの機会を提供することが狙いのひとつです。これにより、従業員のモチベーション向上につながり、企業の成長に貢献することが期待されます。
富士通は、社会課題解決に取り組むことを目指しており、リスキリングを通じて、従業員がソーシャルイノベーションに取り組むことができるようにすることが目的となっています。
これらの目的を達成するために、富士通は10万人規模のリスキリングを実施し、働き手の成長と会社の成長をつなげています。
富士通では、以下のような手法を用いながらリスキリングを行っています。
富士通は、デジタルラーニングプラットフォームを活用して、従業員が自分のペースで学習できる環境を提供しています。
学習コンテンツは、AIやIoT、クラウド技術などの分野に関するものが豊富に用意されており、従業員は必要なスキルを自由に学ぶことができます。
富士通は、オンライン研修を実施して、従業員が新しいスキルを身につけることができるようにしています。
研修は、ZoomやTeamsなどのオンラインツールを活用して実施され、講師から直接指導を受けることができます。
富士通は、オン・ザ・ジョブトレーニングを実施して、従業員が実務において必要なスキルを身につけることができるようにしています。
トレーニングは、AIやIoTなどの新しい技術を活用したプロジェクトに参加することで行われ、従業員は実践的なスキルを習得できます。
富士通は、従業員が専門的な資格を取得するための支援を行っています。
具体的には、資格取得に必要な費用や研修期間を補助する制度が設けられており、従業員は自己啓発に取り組むことが可能です。
これらの手法を組み合わせて、富士通は10万人規模のリスキリングを実施しています。
以下では、国内外の企業でおこなわれているリスキリングの導入事例を紹介します。
米国の大手通信企業であるAT&T社は、2010年代前半から、いち早く社員のリスキリングに取り組みはじめました。この取り組みは、米国企業の中でも最も野心的であると評価されています。
リスキリングを実施するきっかけとなったのは、2008年に行った社内調査で「社内の4割にあたる従業員が、今後消滅していく分野に専門的に従事している」という事実を問題視していることが分かったからです
この課題を解決するために、AT&T社では、全社的なリスキリングを導入しました。
具体的なリスキリング施策として「今後社内で重要となるスキル」についてのオンライン教材や学習プラットフォームの提供。業務ごとに求められるスキルの明確化や、スキル保有者を優遇する報酬体系を設定。そして、社員が自発的にスキルの取得を行うメリットを提示することにより、社内の人材開発にも成功しました。
米国の大手通販企業であるAmazonでは「Amazon Technical Academy」と呼ばれる、非技術者を技術職に転換するリスキリングを用意しました。また、すでに一定のスキルを持つ技術者に対しては、機械学習のスキル教育を施す「Machine Learning University」なども用意されており、社内全体でDX人材の強化を進め、継続的なスキルの底上げを行っています。
国内の大手物流企業であるヤマト運輸では、2021年に「ヤマトデジタルアカデミー」を設立。ここは、対象社員に約2か月の間「プログラミング」や「データサイエンス」のリスキリング教育を施しています。
ヤマト運輸では、従来エクセルでアナログ的に管理していた「配送状況」などの実務をデータ管理していくために、リスキリングを行っています。
国内外の自動車メーカーは、完全な自動運転の実現といった、従来の自動車開発とは異なる分野への対応を求められています。
そこで大手自動車メーカーである日産自動車では、ソフトウェアに関する知見の高い社員を中心とした、自動車開発のためのソフトウェア教育を実施しています。
元来は、自動車メーカーがソフトウェア開発を社内で行うことはほとんどありませんでした。しかし自動車に対するユーザーの嗜好や目的が大きく変わろうとしている現代においては、市場や需要の変化に対応するために、リスキリングが必須となっています。
このように、リスキリングが必要な企業は、富士通だけではありません。現代の企業においては、事業のIT化やDXが欠かせない課題です。
IT化やDXを進めることは、企業の事業効率を高めるだけではなく、人材不足を解消するといった事業の存続に関わる問題の解決にも役立ちます。
新たに優秀な人材を獲得することがどんどん難しくなっている現代の日本においては、リスキリングによる既存のリソースを活用する重要性が、今後も高まり続けることでしょう。
もしリスキリングでお悩みの方は、いつでもアルマ・クリエイションにご相談ください。貴社にとって最適なソリューションを提供させていただきます。