現代の多くの企業が直面している喫緊の課題には、労働人口の減少による人材不足や、国内外の市場競争の激化などがあります。これらの課題を克服し、市場競争に勝ち抜くためには、企業内で優秀な人材を確保するための人材教育を充実させることが必要です。
そこで注目されている教育方法の1つが、リスキリングと呼ばれる手法です。
リスキリングとは、社内研修などによって社員教育を実施する方法で、リカレント教育などの社外の教育機関で学ぶ手法とは異なります。
ただ、どちらも業務上必要となる新しい知識やスキルを学ぶための機会を従業員に提供する目的については同じと言えるでしょう。
そこで今回は、リスキリングを中心に、DX時代に必要な人材育成方法やメリットを徹底解説します。いま社内の人材教育にお悩みのある方は、ぜひ参考にしてください。
リスキリング(Re-skilling)とは、近年のDX(デジタルトランスフォーメーション)をはじめとする情報技術などのビジネス革新に対応するために、業務上必要となる新しい知識やスキルを習得するための教育を実施する手法の1つです。
リスキリングは、あくまでも企業が主体的に行う教育方法であるため、企業の経営・事業戦略の一環として社員に教育機会を与えるのが一般的です。
近年は、技術革新のスピードが早いIT分野やDXなどに対応するために、リスキリングを積極的に行なう企業が増えています。
以下では、リスキリング以外の教育方法や学びとの違いを解説します。
リカレント教育とは、社会人が新たなスキルや知識の取得を目的として、自ら現職を退職するか休職し、大学などの教育機関で学ぶことを指します。
自らのキャリアアップのために学習するという点においては、リスキリングと同じ目的ではあります。しかし、リカレント教育は就労と学習を交互に行うのに対し、リスキリングは業務と並行して学ぶところが大きく異なります。
OJT(On the Job Training)は、企業内の上司や先輩社員の指導を受けながら、実務を通してスキルを高めていく手法です。
業務と学びが同時に行われるためリスキリングと近い教育方法ですが、OJTの目的が「現在の業務に必要なスキルを取得すること」であるのに対し、リスキリングは「新たな業務を見据えたスキルを取得すること」という点に違いがあります。
アップスキリングとは、現在の業務でのスキルアップやキャリアアップを前提とした学習です。
キャリア形成のための学習である点においてはリスキリングと同じですが、アップスキリングは、あくまでも「現在求められるスキルをアップすること」が目的です。
この点において、業務内容の拡大や転換を想定するリスキリングとは、学習目的や範囲が異なると言えるでしょう。
生涯学習とは、仕事や趣味に関係なく、生涯を通じたあらゆる学習を指す言葉です。そのため生涯学習の範囲は、仕事や自己啓発、趣味や生きがいなどの「学び」に該当するすべての分野が対象となります。
現代の企業でリスキリングが注目される背景には、IT革新やDXの推進が企業にとって不可欠となり、社員に必要となる知識やスキルが増えたことにあります。
このように企業のIT化やDXの推進が企業に必要となったいま、新たなデジタル技術を導入し、業務の効率化と生産性の向上をおこなうことが、企業が発展・持続するために欠かせなくなりました。
IT化やDXを推進するには、高度なデジタルスキルを有する人材の確保が必要です。しかし、労働人口の減少が進んでいるうえに、デジタル人材が不足している日本国内においては、社内の優秀な人材に再教育を行いながら育成することが重要となります。
また、働き方改革や新型コロナウィルスの蔓延による労働環境や働き方の変化による影響も、リスキリングが注目される要因の1つと言えるでしょう。
近年は、インターネットを利用したリモートワークやオンライン会議・商談などが広く浸透し始め、労働環境が大きく変わりました。このような変化によって、従業員に新たな知識やスキルの習得が不可欠となり、合理的に従業員の教育を実施できるリスキリングが注目されるようになったのです。
労働環境の加速度的な変化が予測される現代の企業においては、リスキリングによる既存社員のスキルアップやキャリア形成の重要性が、今後さらに高まっていくことでしょう。
リスキリングを行うメリットには、主に次の5つがあります。
それぞれ解説します。
リスキリングを行うことで、企業の業務を効率化できます。
新しいIT知識やスキルが社内に定着することで、業務フローが劇的に改善し、業務の自動化やスピードアップに期待ができるでしょう。また、データ分析や情報管理にも大きく貢献します。
企業のIT化やDXを進めるためには、能力の高い新しい人材を採用しなければなりません。しかし、優秀な人材を確保するには、莫大な採用コストがかかります。そこで、自社の既存社員にリスキリングを行うことにより、採用コストの削減を実現できます。
リスキリングには教育費用がかかるものの、社員の定着率と業務の効率化や、採用コストの削減ができることを考えると、企業に大きな利益となるでしょう。
リスキリングによって採用コストを削減できるとともに、リスキリングによって必要な人材を社内の従業員で賄えるため、人材不足の解消にも役立ちます。
国内におけるデジタル人材不足は、現在深刻な状況にあります。また、今後も人材不足を解消できる見通しも立っていないのが現実です。
このように、多くの企業で優秀な人材の採用が難しくなっているいま、リスキリングによる社員教育が必須と言えるでしょう。
リスキリングによる従業員の知識やスキルのアップデートは、新しいビジネスアイデアや事業の拡大にも大いに役立ちます。
企業のグローバル化が進む現代においては、既存の事業の継続や発展だけではなく、自社のリソースを最大限に活かせる事業展開を実現するために、リスキリングが必要なのです。
リスキリングを行うことで、自社独自の企業風土や理念を理解した社員が、積極的に自社事業をリードできます。
必要なスキルを持つ人材を外部から招聘するよりも、すでに自社の社風を理解した優秀かつ信頼できる人材を活用する方が自社の強みを最大限に活かすことができるため、最も効率の良い事業展開に期待ができるでしょう。
リスキリングを導入するにあたっては、次の4つのフローを策定することが重要です。
それぞれ解説します。
まずは、自社の従業員のスキルを見える化します。
社内で教育を実施するリスキリングにおいては、従業員がどのようなスキルを持ち、今後どのようなスキルが必要かを確認した上で、教育すべき知識やスキルを決定することが重要となります。
それは、現在のスキルと新たに身につけるべきスキルのギャップレベルを把握することで、教育過程を効率化できるからです。
またリスキリングを行う際は、従業員のスキルをデータで管理するのがおすすめです。データ管理することによって、社内全体で各担当者のスキルレベルを共有できるだけでなく、教育終了後に最適な業務への配置が可能となります。それ以外にも、従業員自身が自らのスキルをキャッチアップできるため、しっかりと管理・共有することが大切です。
リスキリングの導入にあたり重要となるのが、教育カリキュラムを適切に選定することです。自社の業務に必要となる新たなスキルを見極め、スキルにマッチした教育カリキュラムを選定しましょう。
教育カリキュラムの選定においては、専門知識のある社外の教育コンテンツを活用するのがおすすめです。とくに初めてリスキリングを実施する際は、外部のカリキュラムを活用することで、専門的な教育ノウハウを学びながら、社内に独自の教育体制を構築することができるでしょう。
リスキリングは、リカレント教育とは異なり、原則として働きながら学習することを想定しています。そのため、リスキリングを業務の一環として行うのが一般的です。
リスキリングに関しては、従業員の負荷になりすぎないように、就業時間内で社内研修の一環として行うようにしましょう。
また、学習しやすい環境を整えるために、普段業務で使用しているPCや職場から学習プログラムへ直接アクセスできる学習管理システムの導入が推奨されています。
このように、従業員が学びやすいように環境を整えることも、リスキリングの成功には欠かせません。
従業員がリスキリングで習得したスキルを企業内にしっかりと定着させるためには、学んだ知識やスキルが十分に実践できる場を提供することが重要です。
しかし、せっかくリスキリングで習得した知識やスキルを、十分に発揮できるような職場環境になっていないケースが散見されます。これは、企業にも従業員にも大きな機会ロスを生む原因となります。
習得したスキルは、慣れるまで実践を繰り返すことが大切です。そこでリスキリングのスケジュール管理においては、教育後の職場環境と業務の遂行を含めた、中長期的な計画を組むようにしましょう。
それでは次に、リスキリングを導入する際のポイントについて解説します。
それぞれ解説します。
ITやDXに関する基本的なデジタル知識やスキルを習得するためには、既存の研修プログラムを利用するほか、外部の教育サービスやコンサルティングを導入するのもおすすめです。リスキリングにおいては、座学だけではなく、実際の業務課題に取り組む必要性があるため、社内リソースと社外のリソースをバランスよく活用しましょう。
リスキリングによる学ぶ機会を用意しても、従業員がスキルを習得する目的や必要性を理解していなければ、実務に生かすことができません。
リスキリングの目的を理解させ、どのような状態になることが必要なのか。またスキルを習得することで、どのような課題を解決できるのかといった目標設定も重要です。そして、リスキリングを実施したあとには、必ず振り返りと評価も行いましょう。
リスキリングの振り返りと評価によって習得したスキルを可視化することで、社内リソースを、社内の各部署へ適切に配置できます。
従業員の中には、リスキリングを行う目的や意義を理解できずに、自分の領域ではないと消極的な姿勢を示す人がいるかもしれません。
このようなネガティブな先入観や思い込みは、企業のIT化やDXを進める際に、大きな障害となる可能性があります。
リスキリングを実施する際は、このようなマイナス要因を取り除いてからスタートすることが大切です。初めのうちは、一部のベテラン社員などから反発されるケースがあるかもしれません。しかし、リスキリングによって得られる知識やスキルのメリットをしっかりと伝えることで、社内の理解とモチベーションの向上を促すことも重要です。
それでは最後に、国内外の企業におけるリスキリングの導入事例を紹介します。
米国の大手通信企業であるAT&T社は、2010年代前半から、いち早く社員のリスキリングに取り組みはじめました。この取り組みは、米国企業の中でも最も野心的であると評価されています。
リスキリングを実施するきっかけとなったのは、2008年に行った社内調査で「社内の4割にあたる従業員が、今後消滅していく分野に専門的に従事している」という事実を問題視していることが分かったからです
この課題を解決するために、AT&T社では、全社的なリスキリングを導入しました。
具体的なリスキリング施策として「今後社内で重要となるスキル」についてのオンライン教材や学習プラットフォームの提供。業務ごとに求められるスキルの明確化や、スキル保有者を優遇する報酬体系を設定。そして、社員が自発的にスキルの取得を行うメリットを提示することにより、社内の人材開発にも成功しました。
米国の大手通販企業であるAmazonでは「Amazon Technical Academy」と呼ばれる、非技術者を技術職に転換するリスキリングを用意しました。また、すでに一定のスキルを持つ技術者に対しては、機械学習のスキル教育を施す「Machine Learning University」なども用意されており、社内全体でDX人材の強化を進め、継続的なスキルの底上げを行っています。
国内の大手物流企業であるヤマト運輸では、2021年に「ヤマトデジタルアカデミー」を設立。ここは、対象社員に約2か月の間「プログラミング」や「データサイエンス」のリスキリング教育を施しています。
ヤマト運輸では、従来エクセルでアナログ的に管理していた「配送状況」などの実務をデータ管理していくために、リスキリングを行っています。
国内外の自動車メーカーは、完全な自動運転の実現といった、従来の自動車開発とは異なる分野への対応を求められています。
そこで大手自動車メーカーである日産自動車では、ソフトウェアに関する知見の高い社員を中心とした、自動車開発のためのソフトウェア教育を実施しています。
元来は、自動車メーカーがソフトウェア開発を社内で行うことはほとんどありませんでした。しかし自動車に対するユーザーの嗜好や目的が大きく変わろうとしている現代においては、市場や需要の変化に対応するために、リスキリングが必須となっています。
このように、現代の企業経営においては、事業のIT化やDXが欠かせない喫緊の課題となっています。
IT化やDXを進めることは、企業の事業効率を向上させるだけではなく、人材不足を解消するといった事業の存続に関わる問題の解決にも役立ちます。
新たに優秀な人材を獲得することがどんどん難しくなっている現代の日本においては、リスキリングによる既存のリソースを活用する重要性が、今後も高まり続けることでしょう。
もしリスキリングでお悩みの方は、いつでもアルマ・クリエイションにご相談ください。貴社にとって最適なソリューションを提供させていただきます。