『他者と働く』の要約|書籍紹介
タイトル:他者と働く「わかりあえなさ」から始める組織論
著者:宇田川元一
▲引用:他者と働く
著者略歴
経営学者。埼玉大学 経済経営系大学院 准教授。1977年東京生まれ。2000年立教大学経済学部卒業。2002年同大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2006年明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。2006年早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、2007年長崎大学経済学部講師・准教授、2010年西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より埼玉大学大学院人文社会科学研究科准教授。専門は経営戦略論、組織論。2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。
ファシリテーターの感想・おすすめのポイント
今回ご紹介するのは『他者と働く─「わかりあえなさ」から始める組織論』です。
著者は宇田川元一(うだがわ・もとかず)氏。本書は、読者、有識者、絶賛の話題作、働く大人すべてに捧げる実践書となっています。
目次
- はじめに 正しい知識はなぜ実践できないのか
- 第1章 組織の厄介な問題は「合理的」に起きている
- 第2章 ナラティヴの溝を渡るための4つのプロセス
- 第3章 実践1.総論賛成・各論反対の溝に挑む
- 第4章 実践2.正論の届かない溝に挑む
- 第5章 実践3.権力が生み出す溝に挑む
- 第6章 対話を阻む5つの罠
- 第7章 ナラティウ?の限界の先にあるもの
- おわりに 父について、あるいは私たちについて
要約
はじめに 正しい知識はなぜ実践できないのか
私たちがもともと経営や組織、そして本書のテーマである「対話(dialogue)」というものに関心を持つに至ったのは、父が零細企業の経営者をしていたことがひとつの大きな要因です。
科学的に「正しい」を出す研究は素晴らしく、感銘を受けるものはたくさんあります。
その一方で、自分の過去に経験した生々しい現実に置き換えたときには、「そういうことじゃないんだ」というもどかしさをずっと感じてきました。
それは「知識として正しいことと、実践との間には大きな隔たりがある」ということです。
既存の方法で解決できる問題のことを「技術的問題(technical problem)」、既存の方法で一方的に解決できない複雑で困難な問題のことを「適応課題(adaptive challenge)」と定義しました。
見えない問題、向き合うのが難しい問題、技術で一方的に解決ができない問題である「適応課題」をいかに解くかーそれが、本書でお伝えする「対話」です。
対話とは一言で言うと「新しい関係性を構築すること」です。
それは、組織とはそもそも「関係性」だからです。
現実に立脚して、理想とギャップに挑むには他者とともによりよく働くことが不可欠です。
それを阻むもの、可能にするものは何なのかということを、この本を通じてお伝えしたいと思います。
第1章 組織の厄介な問題は「合理的」に起きている
道具としての関係性からいかに脱却するか
対話について重要な概念を提示した、哲学者のマルティン・ブーバーは、二限同士の関係性を大きく2つに分類しました。
ひとつは「私とそれ」の関係性であり、もうひとつは「私とあなた」の関係性です。
「私とそれ」は人間でありながら、向き合う相手を自分の「道具」のようにとらえる関係性のことです。
対話とは、権限や立場と関係なく誰にでも、自分の中に相手を見出すこと、相手の中に自分を見出すことで、双方向にお互いを受け入れ合っていくことを意味します。
一方的に解決できない4タイプの「適応課題」
1つ目の「ギャップ型」は、大切にしている「価値観」と実際の「行動」にギャップが生じるケースです。
2つ目の「対立型」は、互いの「コミットメント」が対立するケースです。
3つ目の「抑圧型」は、「言いにくいことを言わない」ケースです。
そして4つ目の「回避型」は、痛みや恐れを伴う本質的な問題を回避するために、逃げたり別の行動にすり替えたりするケースです。
誰しもが持つ「ナラティブ」
「ナラティブ(narrative)」とは物語、つまりその語りを生み出す「解釈の枠組み」のことです。
ナラティブは、私たちがビジネスをする上では、「専門性」や「職業倫理」、「組織文化」などに基づいた解釈が典型的かもしれません。
ナラティブとは、視点の違いにとどまらず、その人たちが置かれている環境における「一般常識」のようなものなのです。
第2章 ナラティヴの溝を渡るための4つのプロセス
対話のプロセス1.準備「溝に気づく」
相手が言うことをきいてくれない、なかなか動いてくれない、話が通じない場合に直面した場合、一旦、自分のナラティブを脇においてみる対話の「準備」が大事です。
一度、引いた目で周りを見渡してみて初めて、わかりあえない人々との間に、大きな溝があることに気づくのです。
対話のプロセス2.観察「溝の向こうを眺める」
相手が、一体どんな環境、職業倫理などの枠組みの中で生きているのか、そのナラティブを知ろうとするのが次の段階です。
じっくりと相手や相手の周囲を「観察」してみましょう。
観察とは、こちら側がどのように働きかけることができるか、そのリソースを掘り起こす作業なのです。
対話のプロセス3.解釈「溝を渡り橋を設計する」
「解釈」の段階は、橋を架けるために、どこにどんな橋を架けるべきか、設計します。
そのために、相手のナラティブや形やその中の様子が見えてきたら、一度、相手のナラティブを解釈してみましょう。
対話のプロセス4.介入「溝に橋を架ける」
実際に行動することで、橋(新しい関係性)を築くのが、「介入」の段階です。
今まで相手のことをよく調べて、考えてきましたので、ここでは具体的に行動に移してみましょう。
第3章 実践1.総論賛成・各論反対の溝に挑む
総論賛成、各論反対を生き延びる
最初に、部門間の対立の典型例として、新規事業開発部門と既存の事業部との対立を考えてみましょう。
見えにくい対立構図の中を生き延び、企業でイノベーションを推進していくためには、適応課題を乗り越えることが求められています。
既存事業部の人たちも、決して会社として新規事業開発をしていくことに反対ではないのです。
しかし、自分たちの現場は、厳しい状況に置かれている。だから、総論賛成、各論反対のような状況になってしまいます。
共通の成果を設定する
あるメーカー企業の新規事業部では、新しい事業を興そうとした際に、「成功しないかもしれないのに、なんでこんなに投資をして時間や人を割くのか」という疑問が生じました。
このとき新規事業開発の部長は、いかに会社にとって新規事業が必要なのか正論ぶっても、大きな進展が見られそうにないと気がつきました。
そこで彼は、自分のナラティブを一度脇に置き、正論で戦うことはせず、既存の事業部や経営陣をよく観察することからはじめました。
第4章 実践2.正論の届かない溝に挑む
上司から部下へと連鎖する適応課題
これはある製造業の本社人事部に勤める若手社員の事例です。
彼は人事部関連業務の一部にITを導入して簡素化してはどうかと上司に提案しました。
しかし、直属の上司は、自分の提案に対しても、「うーん、そうだねえ・・・」と言うだけで、特に賛成とも反対とも意見をくれず、結局、そのままになってしまいました。
上司には判断できないだけの何かがあるはずなのです。
そこに踏み出さなければ、橋は架かりません。
若手社員の彼は、上司とのコミュニケーションを取る中で観察をしてみました。
すると、見えてきたのは、上司のさらにもうひとつ上の上司(本部長)が、最近外部の企業からやって来たそうで、この人が今までのその会社の習慣に対して、改革をすべきだということを強く主張しているとのことでした。
その状況だと、直属の上司は、どう動いたらよいかハッキリと見えておらず、提案がよいと思っても、動きたくても動けない状況だったということが見えてきました。
つまり、言いたいことを言えない「抑圧型」の適応課題に、上司が直面しているということです。
第5章 実践3.権力が生み出す溝に挑む
現場を経営戦略を実行するするための道具扱いしない
多くの組織で改革をしようと経営陣が施策を講じても、現場が十分にそれに反応してくれないということはよくあります。
それどころか、そうした取り組みとは相反するように、仕事は数字を達成するためのものだ、という仕事の無意味化に伴うモチベーションの低下や、低い目標を設定したがる現場と高い目標を設定したがる上司のせめぎ合い、離職、メンタル疾患罹患者の増加といった、およそ目指しているものとはまったく違う現実であったりします。
現場が動かないのは、下の声を聞き入れない上の責任でもあったことがわかったわけです。
現場が腐っていたわけでもなければ、経営が怠けてたわけでもなく、「現場と経営を繋ぐ配管が腐っていた」というわけです。
大切なのは、何をやるか以前の準備として自分のナラティブを脇に置き、しっかりと観察を具体的に積み重ね、解釈を構築していたことです。
第6章 対話を阻む5つの罠
対話の罠①「気づくと迎合になっている」
これは、相手に隷属すること、自ら気づいた課題意識や問題点を見ないようにすること、すなわち、諦めることを意味しています。
対話のプロセスで言えば、橋を渡ったまま帰ってこないのと一緒です。
対話の罠②「相手への押しつけになっている」
「危機意識を持ってもらいたい」と社員に訴えかけて、それが実際に力を持って人々を動かすとはあまり思えません。なぜでしょうか。
それは当然、自分のナラティブと相手のナラティブが違うからです。
対話の罠③「相手と馴れ合いになる」
橋が架かった相手との間には、非常に強い結束ができる一方で、その結果として、かえってこの関係性を大切にしたいという思いが必ず生じます。
この関係性を維持すべく、言いたいことが言えない「抑圧型」の適応課題が生じることを意味します。
対話の罠④「他の集団から孤立する」
よい関係性ができたチームは、非常に強いものです。
ですが、そうした自分たちと周りの人々との間に隔たりが生じてしまうこともあります。
内側でうまくいっていると思われる人たちの間にもそのようなことがしょうじていないでしょうか。
チームの内側であってもナラティブの溝が生じる場合があるからです。
対話の罠⑤「結果が出ずに徒労感に支配される」
今いる世界で精一杯努力することは大切ですが、しかし、それは世界のすべてではありません。
相手との間に橋を架けようと躍起になるあまり、あなたとあなた自身の間に橋がなくなっている状態にあるかもしれないのです。
第7章 ナラティヴの限界の先にあるもの
ナラティブ・アプローチの医療の研究から
この本の知的なバックボーンには、ナラティブ・アプローチの様々な研究があります。
ナラティブ・アプローチと言うと、何か具体的な「アプローチ」をナラティブを用いて行う、というイメージを持たれると思うのですが、実はそうではありません。
ナラティブ・アプローチは、「語り」としてのナラティブに着目して、対話的な実践を行うことを主軸に置いている様々な研究の緩やかな総称のことです。
もともとも臨床心理や看護、医療といった領域から始まった研究領域で、主に社会構成主義という思想に基づきながら、クライアントとセラピスト、患者と医療者といった異なる立場の人間が、対話的によりよい実践を生み出していくために生み出された思想であり、実践の知的な集積でもあります。
自分を助けるということ
もうひとつ大切な点があります。
それは、対話の実践は自分を助けることになるということです。
私たちは、私たち自身がその違和感、苛立ちから目を背けることで、私たち自身を痛めつけているのです。
その違和感や苛立ち、居心地の悪さは、今の自分のナラティブに何らかの限界があることを知らせるものであり、その限界を表しているのが、他者の言動であったりします。
おわりに 父について、あるいは私たちについて
この本を通じて、私は対話という言葉の意味を刷新したいと思って書いてきました。
より正確に言うならば、対話を「私とあなた」の関係性をつくっていくための実践という、対話の本来の意味に戻したいと思って書きました。
ひとつは、焦らずに、着実に歩みを進めてほしいということ、もうひとつは、逆境の中でもへこたれずに対話に挑み続けてほしいということ、そして、苦しみの中にある人に手を差し伸べてほしいということです。
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