多様性を尊重し、個性を活かす「ダイバーシティー経営」を重視する企業は増えつつあります。
しかし、「ダイバーシティー」の言葉は知っているものの、具体的なメリットや推進にあたっての課題など、理解が曖昧な方も多いのではないでしょうか。
本記事では、ダイバーシティーの推進で得られる3つのメリットや導入事例、課題、経済産業省のガイドライン、推進ポイントなどをわかりやすく解説します。
ダイバーシティー経営の導入を検討している経営者や人事担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
ダイバーシティー(Diversity)とは、「多様性」を意味する言葉です。
ビジネスシーンでは、性別、国籍、年齢、宗教、価値観など、さまざまな属性を持つ人材を積極的に活用する戦略のことです。
画一的な考え方に縛られず、多様な視点を取り入れることで、組織の創造性やイノベーションの創出を促進し、企業価値の向上に繋げることが期待できます。
グローバル化や少子高齢化などの社会環境の変化に伴い、企業を取り巻く環境は急速に変化しています。
こうした変化に柔軟に対応し、持続的な成長を実現するためには、多様な人材の力の積極的な活用が不可欠です。
ダイバーシティーは、異なる属性を持つ人々が共存する状態を指しますが、その種類には大きく分けて2つの考え方があります。
表層的ダイバーシティーは、年齢、性別、人種、国籍、障害など、外見から判断しやすい多様性を指します。
具体的には、以下のような属性が挙げられます。
年齢 |
若年層、中年層、高齢者 |
性別 |
男性、女性、LGBTQ+ |
人種・民族 |
日本人、中国人、アメリカ人など |
障害 |
視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、発達障害など |
これらの属性は、履歴書や顔写真などを通じて比較的容易に把握できます。
そのため、企業では年齢や性別構成の男女比率均等化、外国人材の登用促進、障がい者雇用など、表層的ダイバーシティの推進に向けた取り組みが比較的進んでいます。
深層的ダイバーシティは、表層的ダイバーシティに対して、外面から判断しにくい内面的な多様性を指します。
具体的には、以下のような属性が挙げられます。
性格 |
内向型、外向型、楽観主義者、悲観主義者、協調性、独創性など |
価値観 |
家族重視、仕事重視、社会貢献志向、個人主義、集団主義など |
宗教 |
仏教、キリスト教、イスラム教など |
性的指向 |
ヘテロセクシュアル、ホモセクシュアル、バイセクシュアル、アセクシュアルなど |
深層的ダイバーシティは、個人の内面に関わるため、把握や可視化が難しい課題があります。
また、無意識の偏見や差別につながりやすいリスクも存在するため注意が必要です。
ダイバーシティーは、性別、年齢、人種、宗教、障がい、LGBTQ+など、個人の属性に関する多様性を指します。
一方、インクルージョンは、多様な人々が組織の中で対等に扱われ、それぞれの能力や個性を活かして活躍できる状態を指します。
多様な人材を雇用するだけではなく、彼らが組織に貢献できるよう、制度や環境を整えることが重要です。
つまり、ダイバーシティーは「多様性を認める」こと、インクルージョンは「多様性を活かす」ことを意味します。
ダイバーシティーは多様な人材を集めることに焦点を当てているのに対し、インクルージョンはその多様性を活かし、個々の強みを最大限に引き出すことに重点を置いています。
ダイバーシティーを推進すると得られるメリットとして、以下の3つが挙げられます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ダイバーシティーの推進で得られるメリットの一つは、イノベーション創出の促進です。
画一的な思考から抜け出し、多様な視点や経験を取り入れることで、従来とは異なる発想やアイデアが生まれやすくなります。
具体的に期待できる効果は、以下のとおりです。
ダイバーシティーは、組織の創造性と問題解決能力を高め、イノベーションを促進する原動力につながります。
ダイバーシティーを推進すれば、優秀な人材を獲得し、定着率を向上させる効果も期待できます。
近年、優秀な人材は、高い給与や福利厚生だけではなく、多様な価値観を受け入れ、個性を活かせる職場環境を求める傾向があります。
ダイバーシティーが推進されている企業は、そうした人材にとって魅力的に映り、人材を採用しやすくなるでしょう。
具体的には、以下のようなメリットが挙げられます。
ダイバーシティーの推進は、人材獲得・定着率の改善を通じて、組織の成長を支える重要な要素です。
ダイバーシティの推進は、企業イメージを向上させる効果があります。
多様性を尊重し、積極的に取り入れる姿勢は、社会的責任を果たす企業として高く評価されるからです。
特に若い世代や社会意識の高い消費者は、企業の多様性への取り組みに高い関心を示す傾向があります。
ダイバーシティを推進する企業は、こうした層の支持を得やすく、結果として企業ブランドも向上していくでしょう。
企業イメージの向上は、採用活動や営業活動にもプラスの影響を与えます。
優秀な人材を獲得しやすくなり、顧客からの信頼も得やすくなります。
ダイバーシティーを推進する企業を2社紹介します。
三起商行株式会社は、子ども服ブランド「ミキハウス」で知られる企業です。
同社の取り組みの特徴は、社員一人ひとりの個性や能力を最大限に引き出す「働き方改革」にあります。
具体的には、以下のような施策を実施しています。
同社は「多様性を認め合い、個性を活かす」の理念のもと、性別や国籍、年齢、障がいの有無に関わらず、社員一人ひとりが活躍できる環境づくりを進めています
特筆すべき取り組みの一つが「お困りごと解決シート」の活用です。
このシートは、各店舗のCCC(クロスカルチャーコーディネーター)が中心となって作成します。
日本人スタッフが感じる違和感や気になる点、それに対する外国人スタッフの感覚をヒアリングし、その背景にある文化的要因や対応策まで考えて記入し、解決にあたる独自の取り組みです。
これらの取り組みにより、三起商行は社内のコミュニケーションを活性化し、新しいアイデアが生まれやすい環境を整えています。
サントリーホールディングス株式会社は、ダイバーシティ経営を重要な経営戦略として位置づけ、積極的に推進しています。
同社のダイバーシティ推進室では、2012年に「年齢を超える」「性別を超える」「国境を超える」「ハンディキャップを越える」の4つの重点領域を設定し、課題解決に向けた取り組みを進めています。
具体的な施策として、以下のような施策を実施しています。
これらの取り組みが評価され、2017年にはwork with Prideが策定する「PRIDE指標」で、最高評価の「ゴールド」を受賞しています。
サントリーは、全ての人が生き生きと自分らしく働ける環境づくりを目指し、今後もダイバーシティ経営を継続的に推進していく方針を示しています。
ダイバーシティーを推進する際の課題として、以下の3つが挙げられます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ダイバーシティーを推進する際の課題の一つが、ダイバーシティーへの理解不足です。
特に、アンコンシャスバイアスと呼ばれる無意識の偏見は、本人が自覚していないため、より深刻な問題となる可能性があるため注意が必要です。
例えば、「女性は事務職に向いている」といった固定観念は、女性のキャリア形成を阻害する可能性があります。
また、「外国人だから日本語が話せないだろう」といった思い込みは、外国人社員の活躍の機会を奪ってしまう可能性があります。
ダイバーシティ推進を成功させるためには、社員一人ひとりがダイバーシティーに関して理解を深めることが重要です。
そのためには、研修やeラーニングの実施、ダイバーシティーに関する書籍や資料の配布など、さまざまな取り組みが必要です。
ダイバーシティを推進する際の課題の一つが、差別意識の根強さです。
差別意識は、無意識の偏見から生まれる場合もあれば、過去の経験や社会的な風潮によって形成される場合もあります。
差別意識は、多様な人材が活躍できる環境を阻害する大きな要因です。
例えば、女性やマイノリティに対する差別は、キャリアアップの機会を奪い、モチベーションを低下させる可能性があります。
また、障がい者に対する差別は、社会参加の機会を奪い、自立を阻害する可能性があります。
差別意識をなくすことは簡単ではありません。
しかし、企業が積極的に取り組み、社員一人ひとりが意識を変える努力を続けることで、差別意識のない職場環境の実現は可能です。
ダイバーシティを推進する際の課題の一つが、職場環境の整備が不十分であることです。
多様な人材が働きやすい職場環境を実現するためには、制度や設備面の整備だけではなく、風土やコミュニケーションの改善も必要です。
例えば、育児・介護制度が充実していても、上司や同僚の理解が得られなければ、実際に制度を利用しにくい状況が生じます。
また、LGBTQ+など、性的マイノリティに対する理解や配慮が不足している職場では、カミングアウトしにくい問題があります。
さらに、外国人の場合、言語や文化の違いによるコミュニケーションの難しさを感じるケースも少なくありません。
職場環境の整備が不十分な場合、多様な人材が能力を十分に発揮できず、離職してしまう可能性があります。
経済産業省では「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」として、「7つのアクション」と「3つの視点」が示されています。
経済産業省が策定した「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」では、ダイバーシティ推進を成功に導くための7つのアクションが示されています。
これらのアクションは、経営戦略から現場レベルまで、組織全体を網羅しており、網羅的かつ実践的なガイドラインとして活用されています。
7つのアクションの具体的な内容は、以下のとおりです。
経営戦略への組み込み |
|
推進体制の構築 |
|
ガバナンスの改革 |
|
全社的な環境・ルールの整備 |
|
管理職の行動・意識改革 |
|
従業員の行動・意識改革 |
|
労働市場・資本市場への情報開示と対話 |
|
経済産業省が示した7つのアクションは、バラバラに取り組むのではなく、それぞれの強みを活かし組み合わせることで、ダイバーシティーの推進を円滑に進められます。
経済産業省の「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」では、ダイバーシティ推進での3つの重要な視点が示されています。
経営陣の取り組み |
経営層がダイバーシティの重要性を理解し、積極的に推進する姿勢を示すことが求められる |
現場の取り組み |
中高年、女性、非正規社員など、さまざまな属性の従業員が活躍できる環境づくりが必要 |
外部コミュニケーション |
企業の取り組みを対外的に発信する |
中高年や女性、非正規社員など、それぞれの属性を持つ社員が活躍できる環境をつくることは、ダイバーシティ推進の重要なポイントです。
「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」では、これらの視点に基づいた具体的なアクションが示されているため、ダイバーシティーを推進する際には参考にしてください。
ダイバーシティーを推進する上でのポイントは、以下の2つです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ダイバーシティーを推進するポイントの一つは、無意識の偏見の排除です。
無意識の偏見とは、私たちが自覚していないうちに持っている固定観念や思い込みのことを指します。
無意識の偏見は、採用や評価、昇進などの場面で、特定の属性を持つ人材が不利な扱いを受ける原因となる可能性があるため、注意が必要です。
無意識の偏見を排除するためには、研修やワークショップなどを開催し、社員一人ひとりが無意識の偏見に関して理解を深め、それを克服するための方法を学ぶことが重要です。
ダイバーシティ推進を成功させるためには、制度面の整備も重要です。
具体的には、以下のような制度改善が考えられます。
採用制度の改善 |
|
人事制度の改善 |
|
研修やサポート体制の整備 |
|
企業は、自社の状況に合わせてこれらの制度を改善し、多様な人材が能力を発揮できる環境を作っていくことが重要です。
ダイバーシティの推進は、企業が持続的な成長を実現するための重要な経営戦略です。
多様な人材が活躍できる環境を整えることで、イノベーション創出や人材確保、企業イメージ向上などのメリットが期待できます。
しかし、制度整備や意識改革など、推進にはさまざまな課題も存在します。
経済産業省が策定した「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」を活用し、経営陣、現場、外部コミュニケーションの3つの視点から、戦略的に推進していくことが重要です。
無意識の偏見の排除や制度改善など、具体的なポイントを踏まえ、自社に合った取り組みを進めていきましょう。
そこでもし、ダイバーシティに関する疑問や質問のある方は、いつでもアルマ・クリエイションにご相談ください。貴社に最適なソリューションを提供いたします。
下記のボタンからは、日本一のマーケッター神田昌典氏が、あなたの目標に近づく原動力となる具体的で役立つ言葉を毎日紡いで配信中です。
毎朝マーケティングのヒントとなる素敵なコトバが届きます!ぜひお試しください。