リスキリングが自社ビジネスに与える影響と人材育成の必要性を解説
リスキリング(Re-skilling ・再スキルアップ)とは、従来のスキルを更新し、新しいスキルを身につけることを意味します。
現代は、デジタル技術の進化やグローバル化によって、ビジネス環境が急激に変化しており、従来のスキルだけではビジネスを展開することが難しくなっています。
そこで、リスキリングによって、新しい知識やスキルを身につけることが求められているのです。
リスキリングは、自社の既存リソースのキャリアアップやビジネスの成功に必要なスキルを身につけることができるため、非常に大きなメリットがあります。
そこで今回は、リスキリングによる人材育成の必要性や、ビジネスにもたらす影響をまとめて解説します。社内のIT教育などにお悩みのある方は、ぜひ参考にしてください。
そもそもリスキリングってなに?
リスキリング(Re-skilling・再スキルアップ)とは、雇用市場、テクノロジー、またはビジネス環境の変化に適応するために、既存の社員が新しいスキルを習得するか、スキルアップや改善を行うプロセスのことです。
このように、リスキリングは、急激に変化する労働力の需要に対応し、雇用市場で競争力を維持するための新しい知識と能力を習得するプロセスを指します。
リスキリングには、オンライン コースの受講、ワークショップへの参加、セミナーへの参加、または実務経験の取得が含まれます。
現代では、テクノロジーと自動化によって多くの仕事の性質が急速に変化し、新しい仕事が生まれているため、スキルの再習得が非常に重要です。
なぜなら、企業と個々の社員が雇用関係を維持し、キャリアを向上させるためには、新しいスキルを継続的に学習することが不可欠だからです。
リスキリング以外の人材育成方法4つ
学生ではない社会人が学んだり、さまざまなスキルを取得する手法には、ここで紹介するリスキリング以外にもいくつかの種類があります。
- ・リカレント教育
- ・OJT
- ・アップスキリング
- ・生涯学習
以下では、上記の代表的な4つの学び方について解説します。
リカレント教とは
リカレント教育とは、社会人が新たなスキルや知識の取得を目的として、自ら現職を退職するか休職し、大学などの教育機関で学ぶことを指します。
自らのキャリアアップのために学習するという点においては、リスキリングと同じ目的ではあります。しかし、リカレント教育は就労と学習を交互に行うのに対し、リスキリングは業務と並行して学ぶところが大きく異なります。
OJTとは
OJT(On the Job Training)は、企業内の上司や先輩社員の指導を受けながら、実務を通してスキルを高めていく手法です。
業務と学びが同時に行われるためリスキリングと近い教育方法ですが、OJTの目的が「現在の業務に必要なスキルを取得すること」であるのに対し、リスキリングは「新たな業務を見据えたスキルを取得すること」という点に違いがあります。
アップスキリングとは
アップスキリングとは、現在の業務でのスキルアップやキャリアアップを前提とした学習です。
キャリア形成のための学習である点においてはリスキリングと同じですが、アップスキリングは、あくまでも「現在求められるスキルをアップすること」が目的です。
この点において、業務内容の拡大や転換を想定するリスキリングとは、学習目的や範囲が異なると言えるでしょう。
生涯学習とは
生涯学習とは、仕事や趣味に関係なく、生涯を通じたあらゆる学習を指す言葉です。そのため生涯学習の範囲は、仕事や自己啓発、趣味や生きがいなどの「学び」に該当するすべての分野が対象となります。
リスキリングが必要な5つの理由とは?
現代社会において、リスキリングが必要となった理由は企業によってさまざまです。
以下では、リスキリングが求められる主な理由について解説します。
- デジタル技術が進化したこと
- ビジネス環境が変化したこと
- グローバル化が進んだこと
- 社員のキャリアアップが必要になったこと
- 企業の成長に新しいスキルが必要になったこと
それぞれ解説します。
1.デジタル技術が進化したこと
ITやDXなどの新しい技術の導入と進化により、従来のスキルだけではビジネスを展開することが難しくなりました。
労働人口の減少などの影響もあり、IT人材をすぐに採用することが難しくなった現代においては、自社の既存の社員に新しい知識やスキルの取得を促すリスキリングが必要となっています。
2.ビジネス環境が変化したこと
ビジネス環境の急激な変化により、顧客のニーズが変わり、新しい知識やスキルが必要になりました。
特にWebマーケティングをはじめとするITスキルの充実は、これからの市場において、欠かせないスキルと言えるでしょう。
3.グローバル化が進んだこと
グローバル化が進んだことにより、国際競争が激しくなり、新しい知識とスキルが必要になっています。
現代社会におけるビジネスにおいては、これまでのモノ社会から情報社会への移行がさらに進むと考えられています。そこでは、ITやDXなどのこれまでになかった知識やスキルだけではなく「考え方」自体を変えることが必要です。
このような思考を変えるには、新しい知識やスキルを持った人材を雇用するだけではなく、既存の社員のリスキリングが欠かせません。
4.社員のキャリアアップが必要になったこと
上記のような市場環境の変化により、職場におけるキャリアアップをするためには、新しい知識やスキルを身につけることが必要です。
しかし、個々の社員がリカレント教育を受けることで職場を離れてしまうと、企業の運営を続けることができません。
そこで「日々の業務を続けながら新しい知識やスキルを習得する」リスキリングが重要視されているのです。
5.企業の成長に新しいスキルが必要になったこと
ITやDXにより、ハイスピードで変化し続けるビジネス環境の中で企業が成長するためには、既存の社員に新しいスキルを身につけさせることが必要です。
なぜなら、既存の社員が新しいデジタル技術を理解しないままでは、いくら新しい人材を補強したとしても企業の成長が難しいからです。
これからのビジネスにおいて、企業の成長と安定的な運営を行うには、これまでにない新しい知識やスキル活用が欠かせません。
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企業がリスキリングを行うことにより、自社の社員が新しい知識やスキルを身につけることができ、自社ビジネスの新しい可能性を開くことができます。
また、SDGsなどの考え方に代表される社会環境の変化により、新しい知識とスキルが求められていることもリスキリングの重要性を高めていると言えるでしょう。
企業がリスキリングを行う7つのメリット
企業主導による社員教育であるリスキリングには、次の7つのようなメリットがあります。
- 生産性の向上に繋がる
- 競争力の強化に繋がる
- 新しい可能性を開拓できる
- 社員のモチベーションの向上に役立つ
- 離職率の低減に繋がる
- 人材の育成に繋がる
- グローバルな競争力が身につく
それぞれ解説します。
1.生産性の向上に繋がる
従業員に新しいスキルを身につけさせることで、ビジネスプロセスを改善し、生産性を向上させることができます。
特にITスキルは、企業のDXにも欠かすことのできないスキルです。人材不足が進む現代においては、ITを活かした効率の良い生産活動が重要です。
2.競争力の強化に繋がる
新しい技術やビジネスモデルを活用することで、市場における競争力を維持し、市場シェアを拡大することができます。
DXの成功には、既存の社員のスキルアップは欠かせません。DXに成功できれば、生産コストを大幅に削減しつつ、市場シェアの拡大や生産性の向上が可能です。
3.新しい可能性を開拓できる
従業員に新しいスキルを身につけさせることで、新しい可能性を開くことができます。
実際に、国内企業でIT革命を起こし、これまでの事業とは全く異なった分野で市場を開拓して成功した企業は少なくありません。
これまでにない、新しい情報や技術に価値を求めるようになった現代社会では、まだまだ未知のビジネス領域があると言えるでしょう。このような新しい分野を開拓するためには、企業が既存社員のスキルアップ教育を施す、リスキリングが欠かせません。
4.社員のモチベーションの向上に役立つ
従業員に新しいスキルを身につけさせることで、スタッフのモチベーションを向上させることができます。
リカレント教育のように、職場を離れて再教育を受けることは、多くの労働者にとって現実的とは言えません。なぜなら、離職中の生活保障がないからです。
しかし、リスキリングのように「働きながら学ぶ」ことができれば、自身のスキルアップやキャリアアップを図りたい社員が自発的に学ぶことができます。
これにより、スタッフの仕事に対するモチベーションが向上し、企業の成長にも役立ちます。
5.離職率の低減に繋がる
自社の既存社員が新しいスキルを身につけることで、現在の職場環境に満足し、長期的な就業を実現します。
労働人口の減少やワークライフバランスを重視する労働者が増えたことで、今後ますます人手不足が懸念される現代においては、リスキリングによる離職率の低減が大きなメリットとなるでしょう。
6.人材の育成に繋がる
企業が従業員に新しいスキルを身につけさせることで、人材の育成に貢献できます。
デジタル技術の進歩が急速に進む現代において、常に新しいデジタル技術に対応できる人材を補強し続けることは、現実的に不可能と言えるでしょう。
リスキリングを実施することで既存社員のスキルアップが可能となり、企業の成長に欠かせない、企業理念や社風を理解した「優秀な人材の育成」が可能となります。
7.グローバルな競争力が身につく
新しい知識やスキルを身につけることで、グローバルな競争力を高めることができます。
海外発のSNSやECサイトが急速に国内市場に浸透したように、デジタル技術を使えば企業の規模に関係なく、グローバルな市場でも十分に打って出ることができます。
以前は企業の資本に頼ることが多かった新しい市場への進出も、ITを活用したDXの推進ができれば、十分に可能です。
このようなグローバルな競争力の強化についても、リスキリングが欠かせません。
リスキリングの具体的なやり方と手順
リスキリングを実施する具体的なやり方と手順としては、主に次の7つを参考に行うと良いでしょう。
- スキルアセスメント
- カスタマイズされたトレーニング
- ブレンド学習
- コーチングやメンターシップ
- 評価とフィードバック
- オンジョブトレーニング
- スキルアップ支援のインセンティブ
それぞれ解説します。
1.スキルアセスメント
リスキリングにおけるスキルアセスメントとは、職場で個人の能力やスキルを評価することです。
スキルアセスメントによって個人が持っているスキルを明らかにし、仕事においてどのように活用できるかを確認することで、より効果的に働くための戦略を立てることができます。なぜなら、従業員のスキルを評価し、現在のスキルと将来必要なスキルを比較し、スキルのギャップを特定できるからです。
2.カスタマイズされたトレーニング
それぞれの従業員のニーズに合わせたトレーニングプログラムをデザインします。
3.ブレンド学習
リスキリングでは、クラスルームトレーニング、オンライン学習、実践的な経験などを組み合わせた学習方法を採用します。
4.コーチングやメンターシップ
上司や先輩社員、外部講師などが、スキルアップしたい従業員に対して、アドバイスやサポートを行います。
5.評価とフィードバック
トレーニングを受けた後には、必ず従業員のパフォーマンスを評価し、フィードバックを行います。
6.オンジョブトレーニング
従業員が取り組む業務において、実践的な経験を積み重ねることにより、スキルアップを実現します。
7.スキルアップ支援のインセンティブ
従業員に対して、スキルアップに対するインセンティブを提供します。
リスキリングの実施にあたっては、上記のそれぞれのプロセスにおいてPDCAを回しながら精度を上げていくことも大切です。
企業が再スキルアップを導入する際の注意点
企業がリスキリングを導入する際は、次の7つのポイントに注意しましょう。
- 目的を明確にする
- 従業員ニーズに合わせる
- 教育プログラムの選定
- 実践的なアプローチを行う
- 持続可能性の確保
- 従業員の成果を評価する
- 企業文化の適合
それぞれ解説します。
1.目的を明確にする
リスキリングを導入する目的を明確にし、それに合わせたプログラムを設計することが重要です。
2.従業員ニーズに合わせる
従業員のニーズに合わせたプログラムを提供することで、受講者のモチベーションを高めることができます。
3.教育プログラムの選定
リスキリングの教育プログラムを選定する際には、従業員のニーズに合ったものを選ぶことが重要です。
4.実践的なアプローチを行う
実践的なアプローチを取り入れることで、従業員が学んだスキルをすぐに活用することができます。
5.持続可能性の確保
リスキリングを導入した後も、従業員が学んだスキルを継続的に活用できるように、サポート体制を整えることが重要です。
6.従業員の成果を評価する
従業員が学んだスキルが実際にビジネスに反映されているかを評価し、必要に応じて改善策を考えることが重要です。
7.企業文化の適合
リスキリングプログラムが企業文化と適合するように、企業理念や文化、社風を考慮しながらプログラムの設計を行うことが重要です。
国内外企業のリスキリング導入事例
それでは最後に、国内外の企業におけるリスキリングの導入事例を紹介します。
AT&T(米国)
米国の大手通信企業であるAT&T社は、2010年代前半から、いち早く社員のリスキリングに取り組みはじめました。この取り組みは、米国企業の中でも最も野心的であると評価されています。
リスキリングを実施するきっかけとなったのは、2008年に行った社内調査で「社内の4割にあたる従業員が、今後消滅していく分野に専門的に従事している」という事実を問題視していることが分かったからです
この課題を解決するために、AT&T社では、全社的なリスキリングを導入しました。
具体的なリスキリング施策として「今後社内で重要となるスキル」についてのオンライン教材や学習プラットフォームの提供。業務ごとに求められるスキルの明確化や、スキル保有者を優遇する報酬体系を設定。そして、社員が自発的にスキルの取得を行うメリットを提示することにより、社内の人材開発にも成功しました。
Amazon(米国)
米国の大手通販企業であるAmazonでは「Amazon Technical Academy」と呼ばれる、非技術者を技術職に転換するリスキリングを用意しました。また、すでに一定のスキルを持つ技術者に対しては、機械学習のスキル教育を施す「Machine Learning University」なども用意されており、社内全体でDX人材の強化を進め、継続的なスキルの底上げを行っています。
ヤマト運輸
国内の大手物流企業であるヤマト運輸では、2021年に「ヤマトデジタルアカデミー」を設立。ここは、対象社員に約2か月の間「プログラミング」や「データサイエンス」のリスキリング教育を施しています。
ヤマト運輸では、従来エクセルでアナログ的に管理していた「配送状況」などの実務をデータ管理していくために、リスキリングを行っています。
日産自動車
国内外の自動車メーカーは、完全な自動運転の実現といった、従来の自動車開発とは異なる分野への対応を求められています。
そこで大手自動車メーカーである日産自動車では、ソフトウェアに関する知見の高い社員を中心とした、自動車開発のためのソフトウェア教育を実施しています。
元来は、自動車メーカーがソフトウェア開発を社内で行うことはほとんどありませんでした。しかし自動車に対するユーザーの嗜好や目的が大きく変わろうとしている現代においては、市場や需要の変化に対応するために、リスキリングが必須となっています。
リスキリングによる人材育成のまとめ
このように、現代のビジネス環境においては、ITやDXに必要なデジタル技術に関する知識やスキルの習得が欠かせません。
しかし、未だ多くの企業では、事業のIT化やDXが進んでいないのが現状です。
自社事業のIT化やDXを進めることは、企業の事業効率を向上させるだけではなく、人材不足を解消するといった企業の存続に関わる問題の解決にも役立ちます。
優秀な人材を新たに獲得することが今後ますます難しくなる現代の日本においては、リスキリングによる自社リソースのスキルアップが、今後さらに重要となるでしょう。
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